
Suzuki
@finto__
2025年4月11日

小説読本
三島由紀夫
読み終わった
★★★★☆
「地位も権力もないくせに、人間社会を或る観点から等分に取り扱い、あげくのはてはそれを自分の自我のうちに取り込んで、箸にも棒にもかからぬ出来損いのくせに、自分があたかも人間の公正な代表であるかのごとく振舞う人間。そういう人間がどうして出来上るかといえば、あるとき思いついて、誰にも見られない小さな薄汚ない一室で、紙の上に字を書き列ねだす時からはじまるのである。そしてそういうことは、大都会では、今この瞬間にも、怠け者の学生や失業者や、自分に性的魅力のないことをよく承知しているが、わけのわからぬ己惚れに責め立てられ、しかもひどく傷つきやすくて、ほんの些細な自尊心の傷にも耐えられない神経症的な青年などの、粗末な机の上で、(何万という机の上で!)、今現にはじまっていることなのである。非常に傷つきやすい人間が、「客観性」へ逃避することのできる芸術ジャソルへ走るということほど、自然な現象があるだろうか。彼がちゃんとした肉体的自を持ち、それ故に傷つけられることを怖れないなら、他人の「客観性」へ自ら身を委ねる俳優という職業だってあるのである。」p26-27
