DaDa
@tub
2026年9月22日
黒人理性批判
アシル・ムベンベ,
宇野邦一
読み終わった
歴史家・政治理論家であるアシル・ンベンベ(1957〜)による日本では初めての翻訳本。
以降は「ネクロ・ポリティクス」「地球共同体」も翻訳されています。
本著では"黒人という経験"なるものを
「黒人に対する西洋的意識」という外側からの思考と
「黒人自身よる自意識」という内側からの
双方向から、近代の始まり=人種の誕生を機に現在まで続く西洋的思考を批評します。
それも少し変わった地点から。
ンベンベは序文で「世界が黒人になる」という命題を大胆に喝破しています。
「この新しい代替可能性、この溶解可能性、新しい存在の規範としてのその制度化、そして惑星全体に及ぶその普遍化、これらのことを私たちは世界が黒人になることと呼ぶのである」p14
その根拠は大きく2つ。
① 近代の始まり=人種という概念の誕生と共に始まった、主権者である植民者国家による黒人を物象化、つまり商品や消費物として操作してきた資本家主義の歴史的事実が一つ。
② 現代では20世紀初頭のグローバリゼーション、後半の新自由主義が加わり、主権者が企業や資本家に移行。
今や全ての人間が黒人と同様に、今度は率先して自らの物象化する事態が一つ。
以上の分析から人種的な黒人たちが被ってきた被植民者としての在り方が、21世紀に至ってはこの本の読者である私達も同等に内面化しまっているという事態に問題提起をしています。
・また本著でンベンベは黒人を生物的・身体的(肌の色、遺伝子)な差異としてだけで捉えていません。
ダーウィン以前から存在する、黒人=人種=非白人種=劣等種という観念図式から生じた虚像を西洋は黒人の存在に押し付けて操作・
創作されてきか(西洋人が抱く欲望も含めて)を、他方では黒人自身がどの様にして危機にさらされ捻れた形でしかアイデンティティを確立せざるを得ない状況であったかの双方を批判しつつ、改めて黒人という私達となんら変わりがない人間として再思考を試みました。
その過程を経て結論としての終章では、世界が黒人になった現在の私達が、いかに黒人という経験を通して西洋が提示する世界とは別の世界観を想像できるだろうかと、フランツ・ファノンやエドゥアール・グリッサンの理論を取り入れつつ世界像を立ち上げるに至ります。
・最後に本著全体から差別、排除の構成要素は大きく3点から成るとしています。
1 内部と外部の境界線は主権者(教皇や国家や資本家)によって決定される。
2 その境界線は恣意的に規程され、その根拠は操作され作られたものである。
3 その原理とは危機から生じる、恐怖・不安である。
この構造は映画「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」内でも言及された新人アメリカ兵に対しての命令3箇条である、
1 考えるな
2 服従しろ
3 殺せ
これらを基礎づける教条であると理解できます。
上記の命令は日本においても対岸の火事ではなく、ともすれば私達が生きる必要条件にまで成りかねない事態まで迫っていると私は日々感じます。
本著の内容は今一度、SNSなどで飛び交う言説や混迷する事態に私達を踏み留まらせ、私達に飛び込んでくる言葉・他者へ投げる言葉を含めて反省を促す契機になると思いました。
