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@uch
P.236 「まあ、ミスター・スティーブンス。嫌らしいどころか、これは、ただのおセンチな恋愛小説ではありませんか」
もはや我慢すべきではないと思ったのは、このときだと存じます。
とはいえ、いま振り返って正直に申し上げますと、ときにはそれを読んで思いがけない楽しみを味わったことも、ないわけではありませんでした。もちろん、当時の私は、いくら問い詰められても「楽しんだ」などと認めることはなかったでしょうが、いまの私には、「別に恥ずかしいことではなかったのに」という思いがあります。紳士淑女が恋に落ちわ相手への気持ちを最高に優雅な言葉で語り合う小説です。それを読んで心にわずかな喜びを感じたとしても、どこに悪いことがありましょう。
問題は、その入り込んできた人間に対して、私が執事の役割に常住していることを見せねばならなった、ということなのです。
U
@uch
P. 246私がいくらしゃべっても、ミス・ケントンからは「もちろんですわ、ミスター・スティーブンス」とか「そうですわね、ミスター・スティーブンス」といった、気のない相槌しか返ってこなかったとき、私はついにこう言いました。
「もうよろしい、ミス・ケントン。こんな話合いはつづけても意味がありません。この話合いの重要性を、あなたは少しもわかって居られないようだわかっておられないようだ」
驚いたことに、私の言葉にミス・ケントンは急に感情をほとばしらせました。
私はとくに謝罪を期待していたわけではなかったと存じますが、ミス・ケントンのあまりに激しい反発に、ややあっけにとられました。私は決心しました。ミス・ケントンと見苦しい口論になるのは避けねばなりません。暫時、沈黙にものを言わせたのち、私は計算しつくした静かな口調でこう言いました。