さや "空色勾玉" 2025年4月13日

さや
さや
@saya_shoten
2025年4月13日
空色勾玉
空色勾玉
荻原規子
子どもの頃繰り返し読んだ本。 noteにも書いた感想。 屋号の由来の2人目は、「空色勾玉」という物語の主人公、 狭也(さや)だ。 この本は12才の時に初めて読み、その後何度も読み返した大切な物語だ。 何がそんなに惹き付けたのだろうか。 その一つとして、装丁が挙げられる。表紙の有機的で不思議な、勾玉の絵。 それから目次、章立て、ページ表記の数字。全てが凝った作りで美しく、ページをめくる度にワクワクするのだ。また、各章の始めにはその章を連想させる和歌が挿入されており、読み終わった後に、また始めに戻り「この歌にはどんな意味が込められているのだろうか」と、考えてみたくなる構成となっている。 二つ目の魅力は伝説の武器、大蛇の剣(おろちのつるぎ)だ。 あらすじはこちらから引用する。 ーーーーーーー 輝の大御神の双子の御子と闇の氏族とが烈しく争う戦乱の世に、闇の巫女姫と生まれながら、光を愛する少女狭也。輝の宮の神殿に縛められ、地底の女神の夢を見ていた、“大蛇の剣”の主、稚羽矢との出会いが、狭也を不思議な運命へと導く…。神々が地上を歩いていた古代の日本“豊葦原”を舞台に絢爛豪華に織り上げられた、日本のファンタジー最大の話題作。 ーーーーーーー 輝(かぐ)の氏族にも闇(くら)の氏族にも属さず、災害にも似た力を持つ剣は、狭也と稚羽矢(ちはや)との間を行きつ戻りつしながら、変化し続ける。二人で力を合わせて制御できる時もあれば、手に負えずに暴走する場面もあったりと、ハラハラさせられる展開に目が離せない。 三つ目の魅力は、運命の恋。 狭也は、恋しい人の為に身を粉にして生きたいと願う憧れの恋と、共に力を合わせて生きたいと願う愛の違いを知る。 そして、今回再読する中で、狭也という人間の魅力に改めて気付かされた。彼女の性格を一言で言うならば、気が強い。ただそれは気性が激しいだけだったり、頑迷である事を意味するのではなく、冷静な判断力と、柔軟に変化する思考と行動力を同時に併せ持つ、意思の強さなのだ。 それは、慣れ親しんだ故郷を旅立つ時の台詞にも表れている。 ーーーーーーーー 「何があるにしろ、あたしは自分のためにしたいの。答えが出ないままこの村にいることも、今はもうできないわ。まほろばへ行ってみる。たとえ悔やむことになっても、好きでしたことなのよ。あんたはあんたの好きにすればいいわ。あたしは気にしない。だからあたしも好きにさせて。」 ーーーーーーーー そして、憧れの恋が叶わない事を悟り、故郷へ帰る時にも、彼女は敵対する稚羽矢に一歩も引かずにこの様に告げる。 ーーーーーーーー 「あの禍々しい剣をあたしにください。あたしはあれをもって鳥彦の閉じ込められた鉄の檻をうちこわすわ。そしていっしょに自分の檻もうちこわすつもり。あたしのーーおろかな妄想の檻も、そして闇の氏族のところへ帰ります」 ーーーーーーーー 憧れていた夢が叶わないと悟った時、冷静に受け止めるのはとても難しい。そして後悔を引きずって感情的になり、更なる悪手を打ったり、判断を誤るのはとても容易い。何度も間違えながらも、考える事を止めず、前に進もうとする彼女の姿は、応援したくなる凛々しさがあった。 さて、物語は、「もう少しだけ、続きが読みたい」と思わせて幕切れとなる。その心境は、最終章に挿入された和歌と重なる。 ーーーーーーーーー 天つ風 雲の通い路 吹きとぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ 『古今和歌集』 僧正遍昭 ーーーーーーーーー 物語はいつか必ず終わる。その後に何を思い、描くかは、あなたの好きにすればよいのだ。
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