ishiguro_reads "脳はこうして学ぶ" 2025年1月31日

脳はこうして学ぶ
脳はこうして学ぶ
スタニスラス・ドゥアンヌ,
中村仁洋,
松浦俊輔
 数学者から認知神経科学者に転向したスタニスラス・ドゥアンヌによる著書。フランスの科学教育評議会議長にも就任したことで、国の教育について考える立場になり、学びのHOW TOを脳科学的に解説した本として読める。  本書は、なぜ今のところ、AIよりも人間の赤ちゃんの方がはるかに学習能力が高いのか、という疑問から始まる。学習能力を高めるために先天的にプログラムされていることや、後天的な学習の効率を高める機構について説明する。  そもそも人はなぜ全てを学習した上で生まれてこないのか。容量による説明と、環境順応による説明をするが、前者は元数学者らしい明快な解説で小気味よい。  DNAはACGTの4通りで、1対を1ビットとして、60億ビット=750MB程度のデータしかない。生まれてきた時に持ってこれるデータ量はCD-ROM 1枚分程度である。それに対して成人の脳には860億のニューロンと1000兆の接続があり、かなり少なく見積もって100TBの容量を持つ。よって全てを持って生まれることはできない。  では、その初めの750MBには何が書き込まれているのか。赤ちゃんの脳はタブラ・ラサではない。生物と無生物を区別する能力、確率に関する直感、ものとものが互いに同じ場所に食い込んで存在することはないこと、など、ゲームの基本設定は持って生まれてくる。そのことが、AIの無限の可能性を考慮に入れて学習する遅さとの違いになる。  後天的な学習については、教育論のようにもビジネス書のようにも読むことができる。「学習とは、世界の内部モデルを構築すること」と設定し、学びの体系化、予測とエラー修正、能動性の重視、など一般的にも言われているような学習効率化の方法が、脳科学的になぜ正しいと言えるのかを実証していく。
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