
ワタナベサトシ
@mizio_s
2025年4月17日

神様の暇つぶし
千早茜
かつて読んだ
感想
千早茜はたいへんな食いしん坊で、ほとんどの小説作品やエッセイにたくさんの料理・食材・メニュー、そして飲み喰いするシーンが登場する。
食いしん坊の面目躍如、『神様の暇つぶし』ではある意味小説のスジそっちのけでとにかく食べまくる。千早茜作品の中では珍しく、モテない鬱屈した女が主人公で、父親ほど歳の離れた著名な写真家の男と知り合い、つかず離れずの距離感ですごしつつ……、このふたり、とにかくよく食べる!
旺盛な食欲がかもす生命力あふれる陽気さとは裏腹に、退廃的で陰鬱な気配を漂わせながら物語が進む。粗野でガサツで乱暴な写真家になぜか惹かれて次第に寄りかかってしまう主人公。意外なことに写真を撮ったり撮られたりする描写は終盤までない。
ラストまぎわに初めて写真が文章で書き表される。身体のパーツを舐めるように列挙する描写。目で見なければわからないはずの写真が、こんなふうに小説の中で立ち上がってくるとは! 痺れる。
余談だが、過去の回想に事細かに食べたものが書き挙げられていて、そんなの毎日ちゃんと日記をつけなければ絶対に記憶できないだろう・でも主人公のフジコは日記なんて書かなさそう……、と思っていたら千早茜は二歳から(!)ずっと日記を欠かしていないとのこと。
