のーとみ "物語の魔の物語: メタ怪談傑..." 2025年4月29日

のーとみ
@notomi
2025年4月29日
物語の魔の物語: メタ怪談傑作選
結構長く探してた本だったから、比較的安く見つけられて、即購入。 メタ・フィクション的な手法で書かれたホラー小説を、横溝正史から夢枕獏まで、幅広く集めた見事なアンソロジー。珍しいタイプのアンソロジーで、2001年の発行ととっくに絶版なので、一部ではやたら古書価格が高騰してるけど、探せば1500円くらいで買えるっぽい。それくらいの価値はある良いアンソロジー。あまりにも見事な編集なので、目次だけ載せれば、それで感想としては成立するんじゃないかと思ったので、収録作リストを以下に。 小松左京「牛の首」 堀晃「死人茶屋」 赤松秀昭「ある日突然」 倉阪鬼一郎「猟奇者ふたたび」 三浦衣良「丸窓の女」 井上雅彦「残されていた文字」 岸田今日子「セニスィエンタの家」 都筑道夫「五十間川」 田中文雄「海賊船長」 横溝正史「鈴木と河越の話」 星新一「殺人者さま」 夢枕獏「何度も雪の中に埋めた死体の話」 花輪莞爾「海が呑む(Ⅰ)」 メタ怪談といえば必ず話題にのぼる「牛の首」とか「鈴木と河越の話」、メタ怪談の王者とも言える都筑道夫さんの晩年の傑作「五十間川」、「奇譚草子」の中でも印象が強い「何度も雪の中に埋めた死体の話」など、ブラウンのアレを遥かに超えた星新一のメタミステリの金字塔「殺人者さま」など、有名過ぎて、何度も読んでいる作品も多かったけど、全部傑作だし、こんな風に並べられて読むと、また一層、その仕掛けと文章の力を味わえてゾクゾクした。 個人的には、堀晃の失われた落語のタイトルからハードSFの手法で、失われた意味だけを解き明かす「死人茶屋」、ホラー小説内ホラー小説談義が新本格ミステリ的な「猟奇者ふたたび」の終始薄気味悪さが漂う怖さ、このアンソロジーに多く取り上げられている星新一ショートショートコンテスト入賞作の中でも、その異様さで群を抜く「丸窓の女」、岸田今日子の奇想が世界を塗り替える「セニスィエンタの家」、明治29年から昭和58年まで、何度も東北地方を襲った大津波のドキュメンタリーを背景に、事実と物語がせめぎ合う「海を呑む(Ⅰ)」(現在、手に入る花輪莞爾の悪夢シリーズで最も新しい「悪夢百一夜」では、津波のドキュメンタリー的な先行作「ものいわぬ海」を、「海を呑む(Ⅰ)」としてあり、今作は「海を呑む(Ⅱ)」として収録されている)あたりが強く印象に残った。 とにかく、キング「ダークハーフ」より遥かに先に、ペンネームが作家に襲いかかる横溝正史の「鈴木と河越の話」とか、読者をも巻き込む星新一「殺人者さま」とか、モダンホラーのアンソロジーとメタ怪談とホラー論を短編の中に全部ぶち込む都筑道夫「五十間川」とか、小松左京の「くだんのはは」と並ぶ怪談の金字塔「牛の首」とか、その辺未読の人は、この本じゃなくてもあっちこっちで読めるから探して読むといいよ。語り=騙り=カタリの面白さ。そういえば澤村伊智のメタ怪談集にして都筑さんの「怪奇小説という題名の怪奇小説」へのオマージュ、「怪談小説という名の小説怪談」が文庫になってるから、そっちも是非、「牛の首」の現代版も収録されてるよー。
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