
ricochet
@ricochet
2025年4月22日

読み終わった
フィリップ・モーリッツの銅版画の表紙、黒で染められた天地・小口と、タイトルによく合う凝った装丁が印象的。フィリップ・モーリッツは初めて知ったけど、検索すると他の作品もとても好み。
中身は表紙の印象とよく似ていて、どろりと黒い沼に沈んでいくような、性と死の匂いを重たくまとった短編集。正直言って私には苦手なタイプの作品なこともあり、最初はなかなかピントが合わなかったが、後半、ことばにフォーカスした話が並ぶあたりからは引き込まれた。自分の詩の解剖、再展開というのはちょっと不穏な試みではないかと思いつつ、著者の詩を読んだことのない私としては面白かった。
苦手なところとしては、最初の他者である「母」に性が重なる生々しさが何ともいやな感じ。性は生物として成熟した徴である一方、この作品での性は他者を求めずにはいられない弱さの発露だ。腐りかけた果物のように自己の輪郭を保持しきれない弱さが各所に潜んでいるように思う。




