

ricochet
@ricochet
幻想文学、ミステリ、SFが好きです
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- 2025年5月24日水の流れクラリッセ・リスペクトル,福嶋伸洋買った
- 2025年5月23日失われたいくつかの物の目録ユーディット・シャランスキー,細井直子借りてきた読み終わった失われた物たちを悼む12の物語が歴史小説風、独白、ネイチャーライティングなど様々なスタイルで語られる。それは追悼の儀式であり、墓標であり、アーカイブであり、過去と未来が交錯する場所であるらしい。各章ごとにはさまれる、紺地にほんのりと金色のモチーフが浮かび上がる扉が凝っていて美しい。 ある程度集中と熱量を要する文章は個人的にはあまり好みではなかったけれども、ゲーリケの一角獣やグライフスヴァルト港の自然描写は美しかった。
- 2025年5月19日黄金列車佐藤亜紀読み終わったユダヤ人の没取財産を機関車で国外に退避させる道程が普段の仕事や生活の延長線上のように描かれており、そこが読んでいて楽しいところでもあれば辛さが増すところでもある。文章がいつも以上に削ぎ落とされている気がするが、その分バログの夢、夕陽に照らされるアヴァル達といった叙情的なシーンが妙に印象的だった。とりわけラストはよかった。 「また会うことも、ひょっとしたらあるだろう。その時には聞かせて欲しい。一体どうやって全てを奪った海賊船を追い、目当てのものを取り返したのかを。」
- 2025年5月13日縛られた男イルゼ・アイヒンガー,Ilse Aichinger,田中まり,真道杉借りてきた読み終わった無造作に開かれているように見える世界は、くるくる踊る光と影のように、死と生、現実と幻想が交錯し、緊張とエネルギーをはらんでいる。繊細さと強靭さ、率直さと難解さが共存する文章がとても好き。鋭敏な感性と弱者への共感を持ち合わせているのに、終末を見据えながら、悲観にも楽観にも傾かないその強さ。もっと邦訳されないかなあ。
- 2025年5月9日ある晴れたXデイに カシュニッツ短編傑作選マリー・ルイーゼ・カシュニッツ借りてきた読み終わった日常という薄氷がひび割れ、暗い水に沈んでいくような、人間心理の歪さ、奇妙さを描く短編集。「ティンパニの一撃」により様相が一変する様や、不条理さ、語りの上手さはサキなどの短編の名手を思わせるところがあるが、カシュニッツは登場人物達の歪みや孤独を自己のものとして内面化しきって書いているような印象を受けた。文章自体は抑制されたものだけれど、共感のまなざしを感じる。短編としての完成度の高さも素晴らしかったけど、そこがとても好ましかった。そういう意味では、作品のタイプは違うけれども同時代人のエリザベス・ボウエンも少し思い出す。どの作品もそれぞれよかったけど、特に好きなのは「雪解け」、「脱走兵」、「いつかあるとき」。
- 2025年5月7日僕が神さまと過ごした日々アクセル・ハッケ,ミヒャエル・ゾーヴァ,木本栄,那須田淳借りてきた読み終わった「ちいさなちいさな王様」の、ハッケ&ゾーヴァによる大人の童話。テーマが神さまそのものであり若干馴染めないところもあるが、王様によく似た神さまなので愛嬌がある。引出しの中の世界はもうちょっとどうにかならんかったんかとは思うけども。ハッケの日常と隣り合わせのとぼけたファンタジーとゾーヴァの絵はやはり相性が良く、心が和む。 ちなみに表紙の猫ちゃんは別に舎弟というわけではなく、これで商売をしているのか、はたまた単に他生物が煙草を吸ってるところを見たいだけなのだろうか。
- 2025年5月2日星の時クラリッセ・リスペクトル,福嶋伸洋借りてきた読み終わった作家ロドリーゴが持たざる女の子マカベーアの物語を物語ることについて物語る小説(をリスペクトルが物語る)。ロドリーゴは人格としてはあまり成熟していないような印象を受ける一方、美しく難解なアフォリズムめいた言葉を書き、またマカベーアの物語をはじめる前の準備運動を散々見せてくれるので、マカベーアはなかなか登場しない。ようやくマカベーアの物語が始まると、その痛ましさや世界とのずれから生まれる哀しいユーモアに魅せられるが、これは魅せられていいものなのかとも思う。 マカベーアは「私は誰?」という問いを発する愚かさを持っていなかったと語られるが、この問いはナジャを思い出す。私とは誰か、それは私が誰とつきあっているのかを知ること。私はナジャを理解できず、なぜブルトンがナジャという作品を書いたのかがよく理解できなかったが、この作品を読み終わった時も少し似たようなことを思った。自らのアイデンティティのためにある人物を言葉を素材として造りあげようとすること、そして彼らの物語に終わりを与えること、その傲慢さ。 もちろんリスペクトルはその傲慢さを自覚しているし(ロドリーゴの時々見せる鼻持ちならさよ)、読み手の私も共犯者だ。私も物語られるマカベーアとして、マカベーアを物語るロドリーゴとして、その言葉に私をゆだねることで、私の中の私ではない何か、あるいは誰かを探りあてようとしている。なぜ書くのかということとなぜ読むのかということに大した違いはないのかもしれない。
- 2025年4月30日借りてきた読み終わった誠実な筆致から描き出される、細密でありながら時に滲んだような陰影と広がりのある世界が美しい。ただ、大切な人の喪失というテーマをいくらかでもエモーショナルに描く作品について、私はどうも一線を引きがちであり、あまりいい読者ではなかったかもしれない。(これはあまり人には言いにくい理由からだし、この作品が感傷的だという気は全くないけれど。) そして喪失と再生の物語だと思って読んでいたら、作者後記で「私は小説という形式を借りて、人間と環境の関係の変化、人間と種との関係について想像し、一つの生物としての人間の精神の進化を、特にこの私が生まれ育った島国である台湾において感じとろうとした。」とあってちょっと混乱。 愛する人を喪った登場人物たちは、彼らとのつながりを追い求めるように自然の中に分け入り、交感し、そこに徴を読み取り、世界と新たな関係を築き直す。最後の「サシバ、ベンガル虎および七人の少年少女」のなかで出てくるプロローグでは、はるか昔、人間と動物は同じ言葉を話していたと語られる。しかし、象徴を読み取る生き物は恐らく私たちだけであり、そのため私たちは私たちの言葉を発達させていった。そういった過程のことを指しているのだろうか。
- 2025年4月26日郊外へ堀江敏幸買った
- 2025年4月24日メアリ・ヴェントゥーラと第九王国 シルヴィア・プラス短篇集シルヴィア・プラス,柴田元幸借りてきた読み終わったプラスを初めて読むのに短編集からでいいのかとちょっと思いつつ、私は短編が一番好きなので。 マンスフィールド的な繊細さや会話の妙に加え、ふわふわと雲の中を歩いているような軽さと不安が漂う。一歩間違えると底を踏み外しそうな。実際、ほとんどの作品には死が現れる。表題作も、自立の物語にしては随分と不穏で(茶色の服装で黄緑の毛糸を編む女性は地母神的な存在に見えるし、メアリを「取り分」にしたのではないかと思われる)、プラス自身の人生を思うと何ともいえない気持ちになる。しかしメアリの決断の瞬間は輝かしいし、この不穏さと若さの入り混じった空気感は好き。
- 2025年4月22日読み終わったフィリップ・モーリッツの銅版画の表紙、黒で染められた天地・小口と、タイトルによく合う凝った装丁が印象的。フィリップ・モーリッツは初めて知ったけど、検索すると他の作品もとても好み。 中身は表紙の印象とよく似ていて、どろりと黒い沼に沈んでいくような、性と死の匂いを重たくまとった短編集。正直言って私には苦手なタイプの作品なこともあり、最初はなかなかピントが合わなかったが、後半、ことばにフォーカスした話が並ぶあたりからは引き込まれた。自分の詩の解剖、再展開というのはちょっと不穏な試みではないかと思いつつ、著者の詩を読んだことのない私としては面白かった。 苦手なところとしては、最初の他者である「母」に性が重なる生々しさが何ともいやな感じ。性は生物として成熟した徴である一方、この作品での性は他者を求めずにはいられない弱さの発露だ。腐りかけた果物のように自己の輪郭を保持しきれない弱さが各所に潜んでいるように思う。
- 2025年4月20日月のケーキジョーン・エイキン,三辺律子買った
- 2025年4月20日地下室の殺人アントニイ・バークリー,佐藤弓生買った
- 2025年4月20日偏愛蔵書室諏訪哲史買った
- 2025年4月20日石の扉レオノーラ・キャリントン,野中雅代買った
- 2025年4月20日石灰工場トーマス・ベルンハルト,飯島雄太郎買った
- 2025年4月17日ノスタルジアミルチャ・カルタレスク,住谷春也,高野史緒読み終わったこれは面白かった。変奏されるモチーフ、アレゴリー、有象無象のオブジェをちりばめながら、過剰な描写がメタ構造と回想と夢の重層的な迷宮を作り上げていく。描写の多さが特徴的な文章だが、入れ子構造というのがあちこちで仄めかされることもあり、詳細に書き込まれれば書き込まれるほど、世界は細密なミニチュアめいていく気がする。 中核をなす三つの中短編はどれも幼少期〜思春期の子供時代の終わりを描くが、その回想はあまりに原色かつ濃密で、先に進むにつれて世界のタガが外れていき、その秘密が曝け出される。それぞれの子供時代、楽園の終わりは性によってもたらされ、さらに他者との結合(あるいはこれもゲームなのかもしれない)の失敗により世界はあっけなく崩壊する。 しかし、車のクラクションからだって、また新たな銀河は生まれ得るのだ。ありがちと言えばありがちな構造ではあるけど、筆力に圧倒されるし、子供時代の終わりやノスタルジーというのは好きなテーマなのでとてもよかった。
- 2025年4月16日幽霊船(魔法の本棚)リチャード・ミドルトン,Richard Middleton,南條竹則かつて読んだ魔法の本棚シリーズはどの作品も好きだけど、装丁も含め特に好きな一冊。大学の時に原文を読もうと頑張った思い出。これも文庫化しないかな。
- 2025年4月15日水の流れクラリッセ・リスペクトル,福嶋伸洋気になる
- 2025年4月11日アメリカの鱒釣りリチャード・ブローティガン読み終わった多分10年ぶりぐらいに再読。当時は西瓜糖の日々や芝生の復讐の方がセンチメンタルな美しさを感じて好きだったけど、アメリカの鱒釣りの奇妙にリアリティを感じるところもいいな、と思い直した。 それぞれのピースにどんな絵が描いてあるのか、それが世界のどこにはまるのかはよく分からないが、寄せ集められたピースは不思議に美しい光を放っている。 藤本和子訳の素晴らしさは言うまでもないけど、訳者あとがきがこれまた美しく面白く知見にあふれていて素晴らしい。
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