やた
@Yatax
まずこれが恋愛を題材にした作品であることすら知らずに読み始めた。
婚約者のストーカー、そして失踪、初めて知る相手の婚活事情と物語が進んでいくうちに「こんな話やったんや」という新鮮な驚きがあった。
序盤はミステリー小説のような雰囲気もあるので、いつ衝撃的な展開が起こるかわからないハラハラ感を勝手に抱いていたけど、ゆっくりじわじわ淡々と丁寧に「えぐられる」感覚が続いた。
とにかく人間と人間関係の解像度が高くて、特に真実の「男性にはある程度気に入られるけど一部の女性にはすごく嫌われるタイプ」である描写が生々しくてゾクゾクした。
美奈子たちが真実をボロクソに言ってそれを大原が諌めるシーンは実際その場にいたかのような気持ちになった。
真実のターンで本人も気づく通り、ずっと母親に導かれて、自分では選んでこなかった人生が浮かび上がってきて、「毒親」なんて強い表現じゃなくても、不満に思ったり他人に相談したりするほどじゃない支配は確実にあると思った。そういえば自分も大学3年生くらいまで、通帳を母親に管理されていてお金の引き下ろしを自由にできなかった。「これからは自分の自由にさせてほしい」と言った時に、すごく不満そうな態度を取られたことを思い出した。
美奈子たちや希実の真実への感情はわからなくもないどころか、正直めちゃくちゃ共感する。
自分で考えて行動して掴んで進めていく人生じゃなくていいのか?と思うし、そうでない人が恵まれた状況にいるとなんかズルいと思ってしまうのはよくわかる。
でもじゃあ、自分がどんな環境で生まれ育ったとしても真実のようにならなかったのか?自分で考えて行動して掴んで進めていくことができたのか?と思うと、少しのズレで自分は真実になり得ただろうと思う。
石母田のおばあちゃんが架と真実のことを「大恋愛」と言ったことには、ハッとしたし救われたような気持ちになった。自分も引け目を感じる必要はないし、他人が他と比較して何点の関係性だと見下す必要もない、二人が恋愛していることは明らかなんだと感じた。
恋愛を描く時、相手の言動が自分の心に強く印象に残ったり、優しさをくれたりすることがきっかけや想いを強める要素になったりするけど、この作品では架がショッピングセンターに真実といたいと感じたり、真実が三波神社で式を挙げたいと言ったり、そういうところでそれぞれ相手を想っていることが