
CandidE
@araxia
2025年4月23日

植物はそこまで知っている
ダニエル・チャモヴィッツ,
矢野真千子
読み終わった
「本書は、かつて人気を博した『植物の神秘生活』のような本ではない。もしあなたが、植物も人間も同じだという主張を探しているのなら、どうかほかをあたってほしい(中略)あの本がメディア旋風を巻き起こしてから数十年になる。現在、植物学者は増え、層も厚くなった。私は本書で、植物学の最前線の研究を紹介し、植物には実際に感覚があるのだという主張を展開したいと思っている」
本書は、植物の感覚世界を最新の科学的研究に基づき解明し、その驚くべき事実を広く一般の読者に伝える趣旨で出版された。人間の視覚や嗅覚、触覚、聴覚、方向感覚、平衡感覚、さらには記憶といった感覚と巧みに対比させ、植物が光や色を「見る」、化学物質を「嗅ぐ」、物理的な刺激を「感じる」、重力を「知る」、そして過去の経験を「記憶する」という、驚異的な能力を明らかにしている。
著者は遺伝学、分子生物学、生理学などの最先端研究を通して、植物が進化の過程でどのように精緻な感覚システムを発達させたかを詳細に解説する。その際、「植物が音楽を好む」といった非科学的な俗説や神秘主義的な擬人化を明確に否定し、あくまで厳密な科学的証拠に基づく議論を展開することに力点を置くことで、既存の植物の感覚世界を謳う書籍とは一線を画している。その点を多くのメディアで評価され、今日において植物に対する従来の認識を根本から覆す重要な一冊として位置づけられている。
さらに調べたところ、2017年の改訂版(Updated and Expanded)では、初版(2012年)以降に明らかになった科学的進展、特に植物の「聴覚」と「味覚」に関する新たな知見が追加されたようだ。
そこでは、植物の「聴覚」については、オオマツヨイグサがミツバチの羽音のような低周波音に反応して花蜜の糖濃度を増加させる研究や、花の構造が音波感知に果たす役割などが付加され、また、「味覚」については、栄養素や化学物質を感知する精巧な受容体システムや、それらが細胞成長を調節する仕組みなど最新の研究成果が盛り込まれている、とのこと。
いずれにせよ本書は、植物の知覚世界に関する包括的な理解と、植物を通じて自然界への深い敬意を促す、素晴らしい科学書である。
「植物とヒトは共に、外的現実を感じ、知る能力をもっている。だが、それぞれの進化の道筋は、ヒトにしかない能力を与えてきた。植物にはない能力、それは知能を超えた「思いやる」という心だ」
個人的には、「食の好みにうるさい寄生植物」と、「葉は盗み聞きするのか」の章が気に入った。
