ユメ "パラソルでパラシュート" 2025年5月10日

ユメ
ユメ
@yumeticmode
2025年5月10日
パラソルでパラシュート
一穂ミチさんの作品は、これまで読んだ短編集二冊も素晴らしかったのだが、この『パラソルでパラシュート』で完全に心を掴まれてしまった。 主人公の美雨は、偶然ライブ会場でお笑い芸人の亨と出会ったことを機に、亨や相方の弓彦、仲間の芸人たちと「日の沈まない夕方」のような日々を送ることになる。 美雨と亨と弓彦、三人の関係がとても好きだ。異性間の感情も、同性間の感情も、ひとつとして軽んじられることなく丁寧に描かれている。恋も愛も友情も、名前の付けられないような気持ちも、いずれにも優劣をつけることのない一穂さんの眼差しが心地よく、何だか泣きたいような思いがした。それを象徴するような、亨の「ただのひとりとひとりとひとりですわ」という台詞がすごくすごく好きだ。 美雨は、三十歳での契約終了を目前にした受付嬢という立場でもあり、女性が否応なしに他者からのジャッジに晒される居心地の悪さもしっかりと描写されている。きっと誰にとっても生きていくことって大変だけれど、美雨が人との繋がりに見出した希望が、私の心にも小さな明かりを灯してくれた。 そして、美雨の会社の先輩である浅田さん(自分の力で三十歳定年を越えての契約を勝ち取った、強くて格好いい女性だ)の、「現実を見てるからこそ、非現実を愛してんのに。『現実逃避すんな』って、逃してくれへんくせに。わたしにとってこれは、現実と向き合うために必要なエネルギー」という台詞がすごく刺さったし、救われた。
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