
ミオReads
@hanamio03
2025年5月16日

読み終わった
オーディオブック第二弾。
「成瀬は天下を取りに行く」を聞いていたときは成瀬に対して好きとか嫌いとか積極的な感情はないと思っていたのだが、こちらを聞いて、自分が思った以上に成瀬を好きになっていたことに気付く。というか「好きになる」「好きになっていると気付かせる」書き方になっているのかもしれない。
みらいちゃんが小学生コミュニティの中でゼゼカラを馬鹿にされて傷ついたり(ここの島崎の、成瀬を一般論で肯定しないところがまたいい)、お父さんの偏向的な愛情の真摯さと裏腹の滑稽さに笑ったり、篠原が「うちの成瀬!」と言ったところで湧き立ったり、前回島崎が離れることで不安になった成瀬と同じ不安を島崎が感じたり…キャラクターへの理解が進んだ分「信じた」はより面白く感じられた。
篠原がすごくよかったな。斜に構えてるように見えつつも根っこから育ちのいいお嬢さん。あの成瀬の二人目の相方で、成瀬をきちんと好きになってる。親切で真面目で面倒だろうに成瀬にSNSの使い方を教え、「お見合いさせられそうになって…」なんていう結構口に出しにくい相談を、ちゃんと成瀬にできる。かわいい。
問題が何も解決してないのもいい。大きなカタルシスがどっかんどっかん起こる小説じゃないので、篠原は親に気持ちを理解されていないし、みらいちゃんは今いるコミュニティを一生涯のものにはできない予感がする。呉間さんはクレームをやめられないし、お父さんは成瀬のことがいまいち分かってない。城山も、色々あるだろうけど色々あったまま。それでも少しずつ道が見えたり、世界が変わったり、そこに成瀬もいて、成瀬は周囲の変化に気付いていないまま、自分の世界が広がっていく。その広がりの良さが「信じた」はさらに良くなっていて楽しかった。
登場人物たちは地味なりにかなり試行錯誤するんだけど、その試行錯誤が特に何の実も結ばなかったりする。それって書く側からすると相当勇気がいる。伏線ありきの構成というか、全てに意味があって然るべき、みたいな考えが強いので。でもこのシリーズのキャラクターたちは「試行錯誤する」という「人生」を生きていて、それが必ず何かに結びつくわけじゃないけど、結びつかないからといって意味がないわけじゃない、というところにきちんと繋がってくるのがいい。それはラスト、様々な試行錯誤の結果、成瀬が紅白に出るところに繋がってきて、そういう、息を詰めるのとは逆の、深くゆっくり息を吐くようなカタルシスになっていく。そこがとてもいい話でした。
なんかもう2025年の年越ししちゃったのが面白かったな。そういうちゃんと最近の話を読めた(聞けた)のもよかったです。
