"お受験" 2025年6月3日

瀬
@na_7n
2025年6月3日
お受験
お受験
一色伸幸
★★★★☆ 原案・脚本: 一色伸幸 ノベライズ: 榎祐平 図書館を歩いていて「一色伸幸」という名前が目に入った。確か舞台刀剣乱舞で岡田以蔵を演じていた一色洋平さんの実父で脚本家の方だ。 気になってパラパラ中身を覗くと同名の映画の小説版らしく、映画のカットがいくつかカラーで載っていた。かの矢沢永吉さんの初主演映画だったらしい。 最初は、乗り気でないのに小学校受験を強いられている6歳の娘・真結美と、専業主婦で厳しい教育ママの利恵、企業の陸上部所属で家庭をあまり顧みずマラソン一筋の富樫真澄が、小学校受験という課題に直面して教育方針や価値観についてぶつかり合うシリアスな家族ドラマなのかと思っていた。しかし、読み進めると想像とは全く異なり、むしろほんとに1999年に書かれた作品!?と思うくらい、夫婦で支え合うということ、働くということに対する価値観が令和的だった。富樫がリストラされたことを知った後、利恵は全く責めることなく、自分が働きに出て富樫が専業主夫になることを提案し、それを富樫もやってみるよと引き受け、苦労しながらも2人ともやりがいを掴んで頑張ってこなすのだから驚きだった。2人が似たもの夫婦で、互いを尊重していて、変なプライドやマウント意識がなく、娘を愛しているからだろうか。とにかく2人とも素直な印象。利恵が富樫と結婚した理由にバブルの価値観に染まっていないことを挙げていたり、一時はマラソン界のスターだった富樫が煌びやかな接待の場に忌避感を感じている描写があったりして、納得感があった。こんなふうに、困難に直面しても、目を合わせてふふふと笑って乗り越えていけるような関係性の夫婦っていいな。でも、結果的にはよかった(?)けど、父親ならもっと娘の受験日優先してくれ〜!と思った。 また、風景、とりわけ光にまつわる描写が非常に美しかった。 お気に入りはp.75の 「雲のふちがまぶしい琥珀色に輝き、うすい雲から透かしだされたような斜光がやわらかくあたりに満ちていた。海に近いこの街は、そのせいかどうか陽が傾いてからなかなか暗くならず、光の粒子が溶け込んだ蜂蜜色の空気がながながと街のうえにとどまるのだ。」 ノベライズ担当者の榎祐平さんの他の作品も読みたいと思ったのだが、どうやらこの方も映画の脚本家らしく、小説が専門という訳ではなさそうだった。この人の文章表現にもっと触れてみたかったので残念。映画観てみようかなあ。
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