鳥澤光 "東京日記 他六篇" 2025年6月7日

鳥澤光
鳥澤光
@hikari413
2025年6月7日
東京日記 他六篇
《そう云えば新婦にしても自分は知らない筈であるけれども、永年の付き合いでその人の姿は自分の心の中にはっきり宿っている。口に出して人に納得させる事は出来ないが、一人の姿と他の一人の姿とまぎらわしくなると云う事はない。自分のよく知っているお嬢さんが、今ここに花嫁のよそおいをして、自分の知らない花聟の傍に立っている。二、三歩通り過ぎてから不意にその事が非常な感動を自分に起こさせた。》「柳撿校の小閑」P66 「長春香」から「柳撿校の小閑」のつながり。じんわりずっと涙がまとわりついて(本当なら「まぶれついて」と書きたいところだ)読みにくい。小さくて静かな哀しみをとおして描かれる大きな厄災のことを思う。 《今日も午過ぎから家を出て、あてもなく町なかを歩いているが、夜来の雨が朝の内に上がって、かぶさっていた雲が段段高くなり、ところどころに切れ目が出来た。仰いで見ると、そのまだもっと上の所に薄雲があるらしく、辺りは店屋の庇の裏まで見える程明かるくなっている癖に、日の色はどこにも射さなかった。道を行く人にも車にも影がなくて、白い水の底を這い廻っている様であった。》「南山寿」P192-193 仕事のために久しぶりに読み返す。本当なら毎年でも毎月でも読んだほうがいいくらい、内田百閒は最高ね。
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