
ワタナベサトシ
@mizio_s
2025年3月6日

あとかた
千早茜
かつて読んだ
連作短編集。さまざまな立場の女や男がゆるやかにつながりを持ちながら、それぞれの人生になんらかの痕跡を残してゆく。先の物語の主人公が後の話で意外な形で顔を出す。前の話では好感をもって眺めていた相手が、次には鼻持ちならない非道いやつに見えたり、その逆も。
人にはそれぞれ独自の正義があることを再認識させられる。我々はふだんの生活の中でも、矢継ぎ早に提示される種々の問題を一刀両断に結論づけがちで、奥底には多彩な解釈や生きかたがあることを忘れて杓子定規に“正論”を振りかざしそうになる。価値観を行き来する短編のひとつひとつに翻弄され、短絡的な断罪にブレーキがかかる。
ひょっとすると、登場人物の誰にも共感できないかもしれない(私はそうでした)。たぶんそれで「正しい」のだと思う。