
りおかんぽす
@riocampos
2025年6月26日

吉備大臣入唐絵巻の謎
黒田日出男
読み終わった
後白河上皇のサロンで作られたとされ、若狭に伝来し、今はボストン美術館が所蔵する「吉備大臣入唐絵巻」。先日まで京都国立博物館「日本、美のるつぼ」展にも(全4巻のうち第4巻が)出品されていた。現在残されているのは残念ながら前半部分のみ。物語自体は別の書籍に残されている。
物語は当然ながら史実とは大きく異なる。簡単に言えば「異国である唐で不思議な技を使って無理難題を切り抜ける吉備真備すげえ」「手助けした鬼の阿倍仲麻呂もGJ」「文選と囲碁と野馬台詩を日本へもたらしてくれてありがとう」てなところ。
さて。この本は「吉備大臣入唐絵巻」に錯簡、つまり絵巻の用紙の順序ミスがあるために、今までこの絵巻の評価が貶められてきた、という著者の主張を記したもの。しかも解説用図版として絵巻そのものではなく白描模写(色を付けずに輪郭線だけで写した絵)を使っており、描かれている内容がより理解しやすくなっている。
この絵巻について近代においてほぼ最初に取り上げた矢代幸雄は、ボストン美術館の購入後に論文を記している。矢代により本絵巻の理論的枠組み(パラダイム)が構築され、それがずっと続いてきた。そのなかで重要なのが「同一画面・同一人物の繰り返し」。同一構図で「楼・門・宮殿」が繰り返し出てくる。しかも物語と関係なく「楼・門・宮殿」が出てくる。これにより矢代は「単調な構図」「洗練された方法とは言えない」と低評価を与えた。
しかし錯簡が(しかも3箇所も)あるとすると「楼・門・宮殿」が意味なく繰り返し出てくる、という見解が崩れる。しかも錯簡で入っていた部分は、現存しないはずの絵巻き後半部分である、とする著者の意見には納得できる点も多く、推理もの小説のようになかなかにスリリングな展開が味わえる。
なおこの本は2005年刊であり、Wikipediaの「吉備大臣入唐絵巻」にはその後の研究論文も挙げられている。そちらでは錯簡は2箇所だとされているらしい。
なお著者はエピローグにて『絵画資料論的読解に興味を持ってくださったならば、拙著「謎解き 伴大納言絵巻」や「絵画史料で歴史を読む」…さらに「謎解き 洛中洛外図」』など他書の紹介をしているので、そちらも読んでみたいと考えている。

