
鳥澤光
@hikari413
2025年7月4日

関係のないこと
上田岳弘
読み終わった
読む本読んだ本2025
上田岳弘の小説は出たら読むと決めている。読むからには楽しみたい、だから調子を整えてのぞみたい。という前提をステンと転ばされる作品集。リアリズムを選び取った作家の心の振動が伝わってくると思える瞬間がある。
表題作の、こう書かねばならないと作家の脳みそを駆動した現実を思う。辛い。怖い。怒るエネルギーすら奪われるほどの残酷。それを切り離すことで生活を生き延びているとしても、それだけではダメで見つめなければならない現実がある。子供が守られてほしいと願うのをやめてはいけない。狂った世界と無力感に心を乗っ取られたくない。
読書の快楽を与えながら、快とともに生きることへの疑問を置いておく。小説ならではの形で考えることを促される。
《錦戸と僕は似ていない。錦戸が気になることが僕には気にならないし、錦戸が恥ずかしいと思うことを僕は恥ずかしく思わない。錦戸が誇らしいと思うことを僕は誇らしいとは思わない。離婚のことについても、職場のことについても、彼の話はすべて僕にとっては力点がずれているように感じられる。まるで別の世界から来た人みたいに、あるいはフィクションの中の人みたいに。》P76-77「関係のないこと」
てにをはの展覧! 細やかに動き回る文字を追うことの快楽はこんなところにもあるなあ。