
はる
@tsukiyo_0429
2025年6月27日

新樹の言葉
太宰治
読み終わった
『愛と美について』二作目の小説。
郵便屋の男性も、主人公・青木大蔵と乳兄弟だと言う内藤幸吉もその妹も、健やかでまっすぐで、人を疑うことのない無垢さを持っていて、なぜかとても切なくなった。
大蔵があくせくして、どうにかこうにかしようとしているうちに、穏やかに手を差し伸べるような純粋さがあり、幸吉が母親(大蔵の乳母)や家を懐かしそうに語るたびに、泣きたくなってしまった。
太宰作品に出てくるこういう人を見ると、眩しくてたまらなくなってしまう。
料亭となった元実家が火事で燃えたときに、幸吉が言った言葉が印象的だった。
「焼ける家だったのですね。父も、母も、仕合せでしたね」(P291)
切なく、しかし爽やかさを感じる作品だった。
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その夜、私は、かなり酔った。しかも、意外にも悪く酔った。子守唄が、よくなかった。私は酔って唄をうたうなど、絶無のことなのであるが、その夜は、どうしたはずみか、ふと、里のおみやに何もろた、でんでん太鼓に、などと、でたらめに唄いだして、幸吉も低くそれに和したが、それがいけなかった。どしんと世界中の感傷を、ひとりで背負せられたような気がして、どうにも、たまらなかった。
(P284)
