ayame "きもの" 2025年7月3日

ayame
@tsukinofune
2025年7月3日
きもの
きもの
幸田文
これが幸田文最後の長編とか自伝的小説というのは読み終わってから知ったけど、最初にしていちばんの大当たりを引いたかもしれない。 すじとしては着物をめぐって主人公・西垣るつ子の人生が語られていくという話。 自分や人の着るもの、その素材や形、肌触りや用途、扱いを通して人間の観察眼やら道徳やモラルやら処世術みたいなものを身につけていくという大筋だけど、るつ子の感性の鋭さとかそれゆえの生きづらさや息苦しさが地の文の語りからひしひしと伝わってきてすごくるつ子に感情移入?というか共感みたいなものが起きた。 物語後半、関東大震災に遭って着るものの難にあたったとき 「肌をかくせればそれでいい、寒さをしのげればそれでいい、なおその上に洗い替えの予備がひと揃いあればこの上ないのである。ここが着るものの一番はじめの出発点ともいうべきところ、これ以下では苦になり、これ以上なら楽と考えなければちがう。(中略)しかしまた逆に考えると、それほどのひどい目に逢わなければ、着物の出発点は摑むことが出来ないくらい、女は着るものへ妄執をもっている、ということでもある」 とあるけど、幸田文の没後から30年以上経った今でもいろいろ思わされる文章だった。 るつ子のほかにるつ子の良き理解者であり人生の導き手であるおばあさん、田舎の雪国育ちであり東京に嫁してきたことになにか思うところのあるお母さん、性質がまったく違ううえにお互いまったく理解し合えない上の姉と中の姉、3人で仲良しの友達のゆう子と和子、ひょんなことで縁ができた清村その、といろんな女性が出てくるのも特徴だけど、この女性陣たちの間にある関係性やるつ子の目を通した人物像の描写も面白い。 すごく心を引っ掻いてきて残るという意味ではるつ子とお母さんの関係が印象深い。 でもやっぱりおばあさんとるつ子の連帯が今作いちばん好きだな。 書評によると幸田文がこの作品を「未完」と評していたらしくマッジでそこで終わる!?!?(中途半端なところで終わるという意味ではなくて、引きが強すぎる終わりという意味で)てところで終わっていたので物語への大きい満足感と同時にかなり悲しさを感じた。 令和の作品のるつ子だったら報われたかもしれないがそうもいかないのが厳しいよ幸田文。もうちょっと生きて書き切ってほしかったよ幸田文。 教養本という枠に当てはめたくないが確かに人生の手解きが書かれてあるなーと感じたしそれが好きだったので、そこが幸田文文学の旨味なのかもしれない。 久々に作家買い作家読みしたくなった素敵な作品だったので、次本を買うとき幸田文のなにかしらをリストに入れるかも。
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