白川みどり "世界の適切な保存" 2025年2月17日

世界の適切な保存
手のひらから抜け落ちてしまうもの、次の瞬間には忘れ去ってしまうもの。それらを、めいいっぱい感じたままに、適切に保存したいと願う。途方に暮れ、傷つきながら、それでも考え続ける。この本を開き、永井さんの言葉をなぞりながら、全く別のことに想いを馳せている瞬間が、何度もあった。それは今まで忘れていたような、誰かの言葉や、指の腹の感触や、いつかの眼差しの先にあった風景だった。そのあまりに朧げな記憶は、問いの海を漂う私とすれ違うようにして、一瞬目が合った後、また遠くへ流れていった。私は、覚えていたくて日記をはじめた。けれど書いたこと以上に書かなかったことが、確かにある。書く前に忘れてしまった何かが、きっと数え切れないほどある。適切に保存するとは、どういうことか。考えれば考えるほど分からない。けれど、それでも。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved