きよ "バリ山行" 2025年7月30日

きよ
きよ
@kiyomune
2025年7月30日
バリ山行
バリ山行
松永K三蔵
入院となり、本が読める!と思ったが、開腹手術でそれも難しそうなので、オーディブルに申し込み、初めて「聴いて」読んだ本。最高に面白かったが、できれば書面で、文字を追って読みたかった(理由後述)。 会社におらずとも周りから気にもされない妻鹿さんが、本当に会社からいなくなってから、波多くんの中でその存在感を(正確な理解をひとかけらも許すことなく)膨れ上がらせていく、後半のスピード感の良さ。 しかもそれは波多くんが、波多くんを傷つけないように膨らませていく想像の妻鹿さん像から、いくらか誠実で、実感的な妻鹿さん像へと切り替わりつつあり、その切り替わりが、山登りの後半である、というのがまた面白い。自然の中で、ごまかしが効かなくなる感じ。 でもそれは、妻鹿さんの領域には程遠くて、へばりついた自分本位は、ぜんぜん剥ぎ取れていないのがまた面白い。し、それは私が、同族嫌悪に近い感じで波多くんを嫌いな理由でもある。 特に妻鹿さんが慕わしいので……波多くん許すまじ…… 波多くんの暴言の一件がなくとも、妻鹿さんはどこかでするりと会社を去っていたように思うけれど、それでも小石を一つ投げ込んだ無神経は許さないし、謝って精算することを良しとしないので(だって妻鹿さんは「気にしないでよ」以外言えなくなる気がする)、このまま一生会わなくてもいいのだが、読者として、最後の一文は最高に嬉しく、それが波多くんにとって、再開の可能性を示唆する希望であることは、まぁ傍に置かざるを得ない。 たぶん、妻鹿さんもこのバリ山行の醍醐味(というのが正解かはわからない)を分かち合いたくて波多くんを誘ったのだろうけれど、もう二度と人と登ることはしないだろう。妻鹿さんが、あらゆる意味で「結局ひとり」という結論を出さざるを得なかったバリ……あんなに優しい人なのに…… さて、オーディブルの話。 まず、標準速度は遅い。かといって、1.5倍は聞き取れるけれど、本が「情報」に堕ちてしまうので、1.2倍が限度。 それから、感情が読み手に支配される。喜怒哀楽がしっかり声に乗っているので、こちらが好きに頭の中で舞台を組み立てることができない(読むのはうまかった……妻鹿さんのあのちょっと高い声と、藤木常務の声の落ち着き)。 漢字は表意文字なので、視覚情報なしに音読されるのも向いていない。 何より、場面転換を表す二、三行の空きが視覚的にないので、場合によっては一瞬、話が飛んだように思える。 やはり文字を追うのがよいな、とは思うものの、隙間に手軽に本が聴けるのはありがたいもので、今後のお付き合いは慎重になしてゆきたいとのである。
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