
読書猫
@bookcat
2025年8月7日

人間の建設
小林秀雄,
岡潔
読み終わった
(本文抜粋)
“岡 素朴な心に返って、時とはどういうものかと見てみますと、時には未来というものがある。その未来には、希望をもつこともできる。しかし不安も感じざるを得ない。まことに不思議なものである。そういう未来が、これも不思議ですが、突如として現在に変る。現在に変り、さらに記憶に変って過去になる。その記憶もだんだん遠ざかっていく。これが時ですね。時あるがゆえに生きているというだけでなく、時というものがあるから、生きるという言葉の内容を説明することができるのですが、時というものがなかったら、生きるとはどういうことか、説明できません。そういう不思議なものが時ですね。時というものがなぜあるのか、どこからくるのか、ということは、まことに不思議ですね。強いて分類すれば、時間は情緒に近いのです。“
”岡 数学を熱心に勉強するということは我を忘れることであって、根性を丸出しにすることではありません。無我の境に向わないと数学になっていかないのです。ドストエフスキーは悪人でも、やはり熱心に創作に没頭している時は、自分を忘れて無我の境地で書いているでしょう。同じですね。“
”岡 理性というのは、対立的、機械的に動かすことしかできませんし、知っているものから順々に知らぬものに及ぶという働き方しかできません。本当の心が理性を道具として使えば、正しい使い方だと思います。われわれの目で見ては、自他の対立が順々にしかわからない。ところが知らないものを知るには、飛躍的にしかわからない。ですから知るためには捨てよというのはまことに正し言い方です。理性は捨てることを肯じない。理性はまったく純粋な意味で知らないものを知ることはできない。“