もん "人間的教育" 2025年8月10日

もん
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@_mom_n
2025年8月10日
人間的教育
人間的教育
佐川恭一
私にとって初めての佐川恭一作品。 固有名詞出まくりのぶっ飛んだ小説たちを笑いながら読んでいたら、最後には寂しさの中に救いのあるめちゃくちゃ良い書き下ろしが入っていて、(この振り幅はずるいだろ……)と思いながらちょっぴり泣いた。 収録作の中で『受験王死す』『ジモン』『はじめての土地』が特に好き。 解説も本当に素晴らしく、これまでに読んできた小説の解説の中でも特に好きだった。 “読者は「これまでのアホなできごとはフィクションでしか起こり得ない」と笑い飛ばす反面、どこかで「似たような弱さを自分も抱えている」という他人事ではない苦しさと切なさを感じる。”という一文は読み終えた自分の感情を的確に表してくれていて、(そうそう、そうなんだよ……)と唸る。 p.13 「励まし合える仲間」とは、自分で自分の面倒を見られない人間の甘えが生む幻想に他ならない。他者との時間はとにかく時間を食うし、何より思い通りにいかない。励まし合おうと思いながら傷つけ合ってしまったり、ささいなことで喧嘩をして関係修復に奔走するはめになったり……はっきり言って、受験生にそんなひまはない。 p.189 だめ人間が救われる必要はなかった。安易な救いは逆に僕をがっかりさせた。僕のような人間が救われるためには複雑に込み入った贅沢な論理が必要なのだし、何よりも相当な幸運が必要なはずだった。そうしたお膳立てをもって救われるような話を読んだって仕方がなかった。だめ人間が徹底的にぶちのめされ、それでいて世界に屈していないようなものを選び、何度もしつこく読み返して、自分の中にため込んでいった。 p.210 なんで書いてるんやろ、と僕は思った。みんなが信じる世界を揺らがせるような悪の物語。その僕のあこがれはすでに世界じゅうにいくつも存在していて、それでも世界は盤石だった。読んでいるあいだにいくら世界が転倒しても、目を離せば元どおり、そこには合理性や効率や愛や快楽の競争がひしめいている。
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