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もん
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@_mom_n
  • 2025年7月11日
    ネバーランドの向こう側
    『スターゲイザー』の感想にも書いた覚えがあるが、佐原さんの作品を読むたびに、登場人物を魅力的に書くのが上手すぎる……!と痺れる。例に漏れず今作も最高。 物語も面白くて、読み終えてしまうのを寂しく感じつつあっという間に読んでしまった。実日子に振り回される椎名さんとサイトーくんをずっと見ていたい。登場人物みんなの幸せを祈っている。 p.14 死んだら星になる、という表現は、それなりに的を射ているのかもしれない。命がぱつん、と終わった瞬間、もちものがぜんぶさっ引かれて、あっというまに宙に引っ張り上げられる。という感傷のもと、星を見上げて、お父さん、お母さん、そこにいるの、なんて思ってみようともするけれど、ちまちまと瞬く光はだれがだれだかわからなくて逆にこわい。 p.116 痛くて情けなくて悲しくてじわりと涙が出てくる。 わたしにはもう、ゼリーのふたを開けてくれるような人もいないんだ。ひとりで生きるってそういうことなんだ。 p.186 残骸みたいな涙だ。悲しいとか苦しいとか、そういう気持ちはまったく湧いてこない。ただひたすら、もうじゅうぶんわかったから勘弁して、と音を上げたいだけ。わかったけど、わかんないから。
  • 2025年7月7日
    がらんどう
    がらんどう
    すばる文学賞の受賞作が発表された時からずっと気になっていた作品が文庫化されていて、時の流れの速さに驚きつつ一気に読む。作品全体の不穏な空気感も津村さんの解説もよかった。 p.22 わたしは、普通じゃないことを選ぶのが怖い。なるべく地味で、目立たないでいることは楽だし、そうやって過ごすのにわたしの性質も見た目もぴったりだと思っていた。 p.72 身体から一切の力を抜いた。重力に任せて、指先まで意識を研ぎ澄ます。ベッドに横たわったまま、ぴくりとも動かさない。わたしは、時々こうやって死んだふりをする。 p.109 わたしの赤ちゃん。がらんどうで、歪で、できそこないの。それは、わたしにぴったりなような気がした。わたしの腕の中に、こんなにもすっぽりと収まるのだから。
  • 2025年7月6日
    平場の月
    平場の月
    自分が一番信頼している作家が「めちゃくちゃすごい。文章もうますぎる」と絶賛していたのですぐさま購入。 本当にすごかった。文章のうまさに数えきれないほど唸り、付箋を貼りまくった。普段本を読んでいて泣くことは滅多にないが、この本の最後は読みながら自然と泣いていた。読めてよかった。 p.82 今回の検査結果で、希望をたっぷり染み込ませた綿を手に入れたような気がした。握りしめるたびにしずくの落ちる、この綿があれば、強いこころでいられる。きっと。 p.160 落ち込みも深いようで、あんなに姿勢がよかったのに、だんだんと猫背になった。三日月のネックレスが首から離れて垂れ下がり、ときに揺れた。 p.243 そんなことはないはずだ。あのときも、ほら、あのときだって、通じ合ってんなって分かっちゃったこと、あったじゃねーか、と思うのだが、具体的な場面はなかなか出てこなかった。
  • 2025年6月28日
    夜空に泳ぐチョコレートグラミー
    同僚から一番好きな本だと紹介され、気になって積読から引っ張り出して読んだ。 私は一番好きな本を人に教えるのはなかなか勇気のいることだと思っていて、勇気を出してこの本を教えてくれたことがうれしい。 切なくて繊細な物語の中に驚くような仕掛けもあって面白い。 p.115 ひととの付き合いで大事なのは、過ごした長さではなく密度だと聞いたことがあるけれど、この人たちを見ていると図々しさが一番大事なのではないかと思う。だって、あまりにも遠慮がなくてうるさい。 p.153 私より幸福な場所で苦しいと泣いているひとに、石を投げようとせずにはいられない。でも投げ切るだけの強さもなくて、掴んだ石だけ足元に溜まっていく。それは私自身を身動き取れなくさせる。
  • 2025年6月24日
    ことばの足跡
    ことばの足跡
    私は小原晩さんが好きで、2022年に恵文社で行われた小原さんのトークイベントの聞き手を韓さんが務めていたことをきっかけに韓さんのことも大好きになった。 そして椋本さんが作った『26歳計画』も、大森さんが店主を務めるUNITÉのYouTubeも大好きなので、こんな贅沢な共著があったのか…!と飛びつくように注文した(失礼ながらあかしさんのことはこの本をきっかけに知ったけれど、すっかり大好きになった)。 同世代の4人による、五十音のそれぞれの音から始まる単語をテーマに書かれたエッセイ集。 テーマも文字数も限られた中で書かれたエッセイたちは、全て誠実で面白くて心地よかった。 1つのエッセイにつき見開き1ページと読みやすく、(さ行まで読もう)(は行まで読もう)などと決めて何度も本を閉じようとしたけれど、結局手を止められずぐんぐん読み進め、あっという間に読み終えてしまった。 もっと大事にじっくり読むつもりだったのに…と思いつつ、何度も何度も大事に読み返そうと決めた。 ほんとうに全て残らずいいエッセイだけれど、『括弧』『護身術』『ずれ』『飲み会』が特に好き。 p.27 数日もすればみんなそれぞれの日常へと潜っていき、年の始めに願ったことなんかすっかり忘れて、再びたよりなくて危なっかしい日々をおくる。誰にでも等しくかかる魔法みたいに、元日だけ、どこもかしこもピンと背筋がのびる。 p.35 私を傷つけたいのなら、まずは私に大切に思われるようになってください。傷つけられるほど自分の言葉に価値があると思わないでください。きっと誰しもが、そのくらいの図々しさを携えて生きる方がいい。 p.94 「うさぎ追いしかの山」が「売上追いしビルの山」であり、「小鮒釣りしかの川」が「スマホいじりし人の流れ」である東京の都心に懐かしさもくそもあるわけがないのだ。 p.139 それでもたまに声をかけてくれる人がいる。「起立、礼、着席」のような大きな号令ではなく、「こっちにきて一緒に星でも見ませんか」というような小さな声。
  • 2025年6月21日
    ざらざらをさわる
    あたりが静まり返った夜中に、体育座りになってひっそりと読む。たまに遠くから電車の音が聞こえて、深夜に働いている人がいることを思う。 やさしい文体とたくさんの挿絵から童話のような親しみやすさを感じるが、物事への眼差しは鋭くて、読みながら何度もはっとさせられた。三好さんの生活を覗き見しつつ絵との向き合い方も教えてもらえて、軽やかだけれどとても読み応えがある一冊。 『おねがいリラックス』『ごはんは眠る』が特にお気に入り。 p.46 恋人にせよ家族にせよ、対象を抱きしめることは、それをどんなに愛情を持っておこなったとしても、短い時間ですが相手の動きをすっかり止めてしまうことでもあります。 p.108 私の知らないあいだにものすごい速さで移動してしまった私の体は、とろりと物憂く、兄はまだ寝ていて、父はハンドルを握り、母はまっすぐに前を向いていて、私は、あまりにも長く続くトンネルに恐ろしくなって、また、眠りました。 p.112 夏の始まりかけの、少し湿ったあたたかな夜に、駅から一番近いコンビニでアイスを買って、地面にポタポタと落ちない程度のスピードで食べながら、人通りの少ない方の道を家に向かって歩いていくのは、とてもいいものだと思います。
  • 2025年6月20日
    明け方の若者たち (幻冬舎文庫)
    刊行当初から話題になって映画化もされて、天邪鬼な自分がずっと避けてきた作品。カツセさんのSNSもラジオも好きなのにデビュー作を読んでいないのはまずいだろうと思い、今更ながら読んだ。 今の自分は周りの年上の人たちから「一番楽しい時期じゃん」と言われるような年齢だけれど、羨ましがられるような楽しいことなんて何もない。この作品を読んだら健気で孤独な主人公がいて、眩しくて虚しくて愛おしくてたまらなくなった。 p.150 もう覚悟を決めてしまった彼女の一番やわらかい部分を揺さぶって、その「覚悟」がどのくらいの強度でできているのか、念のため確かめてみるのだろう。 p.161 沈黙は金、とわかっていながら、参加賞すら取れないほどに愚かな行動を取ってしまうことが、稀にある。でももう一度会えれば、もしかしたら全ては解決するのかもしれない。解決しなくても、絶望的に彼女が足りていない僕の心と体は、少しは潤いを取り戻せる。そうおもっての行動だった。 p.173 シャワーヘッドを握る。浴槽に叩きつける。「あ」が溢れる。壊れて、割れてほしいのに、何も変化がない。壊れろ。割れろ。「あ」が溢れる。シャワーの音が、聞こえなくなる。口の中に血の味が広がる。「あ」が溢れる。「あ」が溢れていく。頬に涙が水か血が流れている。
  • 2025年6月19日
    恋の収穫期
    恋の収穫期
    地元の喫茶店でコーヒーを飲みながら黙々と読む。好き。本当に好き。読みながら身悶えてしまいそうになるくらい好き。眩しくて、苦しくて、とにかく愛おしい。 本当に最果タヒさんの言葉に救われ続けている。 p.19 急な言葉で私の頭の中のラブストーリーはひび割れて消えた。土みたいなものでできていたんだと、その割れ方で気づいた。 p.38 口には出さなかった感情は、それでも言葉として抽出され、行き場もないから舌の上を泳ぐしかない。もう飲み込めないな。吐き出すこともできない。私はこいつを口の中に飼うんだろう。水槽のように、透明になって。 p.198 私は、この心の浅はかさを大事にしたい。恋がしたいんじゃなかったな、恋ができるくらい、心がぶあつくなりたかっただけだ。人の悲しみを本気で受け取って、一緒に傷を負って、血を流したかっただけだ。
  • 2025年6月13日
    ⾳を⽴ててゆで卵を割れなかった
    深夜に新宿三丁目の喫茶店でコーヒーを飲みながら読む。ネットカフェで一眠りして、歌舞伎町の喫茶店でモーニングを食べながら続きを読む。あまりにも面白くて、読み終えるまで喫茶店に居座った。 生湯葉さんの人柄が大好きになり、この人の書くエッセイをもっと読みたいと素直に思った。 魅力的な人がたくさん出てくるけれど、私は特に星野くんが好き。 p.28 呪いさえ口にしないことの冷酷さが許せなかった。おまえ、私と無関係で私を憎みつづけられると思うなよ、憎しみはおまえだけのものだろうが、おまえの憎しみに責任を持てよ、というようなことを日記には書いて、怒りに体を燃やしながら眠った。 p.95 ふつうじゃない。その言葉はどう咀嚼しようとしても粉薬のように口の中に貼りついて残った。 p.143 問題、もし早く解き終わっちゃったら終わった感じのオーラを出しといてね、そしたら私できるだけ気づくようにするから、と曖昧なことを毎回言うようにしていたら、あるときから全員がばらばらの“終わった感じ”を出してくれるようになって、その違いを見るのが無性に好きだった。 p.144 あのころ、自分を通り過ぎる視線のすべては意味であり評価だった。所作の一つひとつに何かを仮託されてしまうものだから、息を吸うことも吐くことも容易ではなかった。眼差されるたびに輪郭がたまねぎのようにほろほろと剥けていき、世界がすこしずつ自分を侵食していくような心地がした。
  • 2025年6月12日
    殺人出産
    殺人出産
    ライブ会場に向かう電車の中で読む。 表題作は、他人を産みたいとも殺したいとも思わない自分には全く共感できない物語だけれど、それでものめり込んで読んでしまうのはやっぱり村田さんの文章が好きすぎるからなんだろうな。 最後の『余命』が特に好き。勝手に生まれさせられたんだから死ぬ時くらいは自分で決めたいと考えることがあるが、自分で自分を葬るのも確かに大変だよなあ。 p.89 「世界の変化は止められないわ。いくら叫んでみたところで、『更生』されるのはあなたのほうよ。あなたが信じる世界を信じたいなら、あなたが信じない世界を信じている人間を許すしかないわ」 p.94 私たちはいつ死ぬかわからない日々の中を生きている。いつ殺すともしれない日々の中を生きている。殺人のそばで、私たちは取り替えられながら生き続けている。きっと何千年も前から。 p.118 たとえ100年後、この光景が狂気と見なされるとしても、私はこの一瞬の正常な世界の一部になりたい。私は右手の上で転がる胎児を見つめながら、自分の下腹を撫でていた。
  • 2025年6月2日
    スノードームの捨てかた
    約4年前に『氷柱の声』かられいんさんを好きになった人間として、(くどうれいんのエッセイも日記も短歌も俳句も絵本も童話も最高だが小説を推したい!)という気持ちがずっとある。 だからこそ小説作品集が刊行されたことが本当に嬉しい。群像に掲載された時に読んで(良すぎる!みんな読め!)と強く思った『背』が単行本になったことが本当に本当に嬉しい。 すべての作品が大好きでどれが一番好きかなんて決められるわけがないが、登場人物は宇津木と黒木くんがたまらなく好き。 p.30 しゃがんで見上げると、さらさは下唇をむん、とひしゃげて泣きそうな顔をしたあと「びええ、うれしいよお」と言って、泣かなかったので笑った。 p.80 夜の川はときどき鱗のように光る。二度と同じ水は流れないはずなのに、川を見て何かを思い出すとき、わたしたちは川の何を見ているのだろう。 p.108 黒木くんは玉子サラダを下から吸い込むように口に入れ、頬を膨らませて「ふあ」と言った。「うま」だとわかった。
  • 2025年6月2日
    スターゲイザー
    スターゲイザー
    佐原さんの作品を読むたびに、登場人物を魅力的に書くのが上手すぎる……!と痺れる(佐原さんの作品をきっかけに小説の登場人物にリアコの感情が芽生えたので、佐原さんは私にとってのリアコの祖である)。 『スターゲイザー』も推しを探すつもりで読み始めたが、結局全員推せるじゃん……と頭を抱えた。 最終的に“社交辞令ですませない男”と大根のかつら剥きのエピソードがあまりにも愛おしくて透推しに着地したが、湊斗も好きだし遥歌と蓮司の関係性も最高だなあと思っている。 p.133 そう。むちゃくちゃ。知らなかった?おれは知らなかった。けっこうなんでもやれちゃうっぽい、おれ。 p.200 あいつは俺の掌に無理やり星を握らせて、落とさないでね、ずっとひらいて、光らせておいてね、と囁いてくる。 p.296 「やだね。謝ったらあいつすっきりするだろ?そしたら速攻でおれのことなんか忘れる。おれはずっと抜けない棘でいてやるからな」
  • 2025年6月1日
    信仰
    信仰
    3年半ぶりに読み返した『コンビニ人間』があまりにも面白かったので、2年半前に読んだ時にはいまいち理解できなかった『信仰』も今なら面白く読めるのでは…?と思い、文庫版を購入。結果、めちゃくちゃ面白かった。 基本的に現実離れした設定の物語は苦手だけれど、村田さんの文章で書かれると抵抗なくするする読めるのが不思議だ。 『生存』『彼らの惑星へ帰っていくこと』『残雪』が特に好き。『書かなかった日記』は言葉を噛み締めるように大事に読んだ。 村田さんの作品を他にも数冊購入したので、今月は村田沙耶香月間になりそう。 p.91 私は、誰よりも平凡な地球人になりたかった。それは、宇宙人であることがばれないように、用心深く地球人を演じ続ける宇宙人の姿と少し似ていた。違うのは、私はどこまでも地球人だということだった。私が帰る星はどこにもなかった。 p.113 どうか、もっと私がついていけないくらい、私があまりの気持ち悪さに吐き気を催すくらい、世界の多様化が進んでいきますように。今、私はそう願っている。何度も嘔吐を繰り返し、考え続け、自分を裁き続けることができますように。 p.155 感動は液体です。体の中を流れて、脳の汚れがざばざばと、あっという間に流れ落とされていきます。
  • 2025年5月28日
    東京の美しい本屋さん
    来月の東京ひとり旅に備えて予習。独立系書店には割と詳しい方だと思っていたけれど、知らないお店がたくさんあった。ここ行ってみたい!と思って調べたらすでに閉店していて残念に思ったりもした。 “会いたい人には会えるうちに会っておいた方がいい”とよく聞くが、気になる書店には早く行っておいた方がいいし気になる本は迷わず買っておいた方がいいと最近よく思う。
  • 2025年5月25日
    聴きなれた曲だけを聴いていたい夜がある: 田中章義詩集
    図書館で見つけて、タイトルに惹かれて手に取った。自分が生まれる前に出版された詩集。 自分が生まれる前に書かれた言葉を読むことができるって奇跡みたいだなあとしみじみ。 本を読みたいけれど頭に入ってこないという時にも詩集は寄り添ってくれる。 p.32 過ぎ去った日々を なつかしむことだけが、 思い出を大切にする作業じゃない。 (『第二章のはじまり』より) p.51 ”フォーエバー“という言葉を口にするとき、 人はいつも透明のバスに乗っている。 (『フォーエバー』より) p.115 恋愛の場合、 いちたすいちはニじゃなくて いちたすいちは、すごいいち。 (『日焼けするスピード』より)
  • 2025年5月18日
    たまたま生まれさせられたあなたへ
    文フリで垂井さんにお会いし、新刊を読み、ポッドキャストを聴き、(うう〜〜〜やっぱり垂井さんが好きだ………)と再認識したところで掌編集を読み返す。 垂井さんの文章はなぜこんなに沁みるのだろう。うまく言葉にできないのがもどかしい。静謐で誠実。本当に大好きで心底憧れている。 いつか西荻窪のそれいゆでこの本を読み返すと決めた。 22の掌編の中でも『Pillow Pillow』が特に好き。わずか3ページの掌編だけど、好きな言葉がありすぎて付箋を7枚貼った。 『あの人の心臓』『トゥールーズの夕方』『ひとりじゃないと見えない星』も好き。いやもう本当に全部好き……。 p.3 あなたがたまたま生まれさせられたことについて、おめでとうと手放しに祝福することがわたしには出来ない。でも、その偶然に眼差しを向けていたい。 p.54 ひとりじゃないと見えない星があるって信じてみることは、なんだか一つのささやかな希望のように思えた。大好きなあなたとも共有することができないもの、やわらかい光を発していて、両の手のひらで捕まえたらほんのりとあたたかそうなもの、そういうものが世界にはちゃんとあってほしいと思った。 p.127 「だから大丈夫だよ、ここにはわたしもいるから」あなたがそう言って目を閉じる。後にはその言葉の鱗片だけが残っていて、まるで言葉の全ては寝言だったみたいになって。
  • 2025年5月15日
    神様 (中公文庫 か 57-2)
    どれも現実離れした物語なのにするすると心に入ってきて、突然琴線に触れる言葉が飛び込んでくる。やっぱり私は純文学が好きだなあと思う。九つの短編の中で『夏休み』が特に好き。 佐野洋子さんの解説もとてもよく、「夢が発生する魂の場所にスタスタ平気で行って、いつまでも遊んだり、さっさと帰って来たりする川上さんは、ペンで、私達に自分の見ない夢を見せてくれて、私は実に得した気分になる」という言葉に大きく頷く。 p.23 このところ、夜になると何かがずれるようになったのである。何がずれるのか、時間がずれていくような気もしたし、空気がずれていくような気もしたし、音がずれていくような気もしたし、全部ひっくるめてずれていくのかもしれなかった。 p.27 空気は昼の熱気を残して、なまぬるい。夜の中で、自分の影がいくつも重なってくるような感じだった。 p.142 カナエさんの体じゅうが淋しくなった。体のうわっつらも中身も、ぜんぶが淋しくなった。最後まで残っていた淋しくない部分が淋しいにくるりと裏返ったとき、カナエさんは帰らない男に向かって、 「帰ってほしいのです」と呼ばわった。
  • 2025年5月14日
    救われてんじゃねえよ
    文学フリマで上村さんから直接購入した本。 私はヤングケアラーではないけれど、周囲の人たちから「自分だったら耐えられない」と言われる家庭環境で生活しており、家族に不満を持ちながらも心の底から嫌いにはなれず余計に孤独を感じている。 沙智の気持ちがちょっと分かる気がするけれど、でも安易に「分かるよ」とは言いたくなくて、ただひっそりと沙智の幸せを願っている。 p.18 お父さんのこともお母さんのことも、心の底から嫌えたら楽だ。でもわたしは中島みゆきのファイト!を聞いて泣いた一時間後にBL漫画の濡れ場をかじりついて読んだりする。 p.27 いっそ、赤ちゃんならいい。弱いことは希望だ。でもお母さんの弱くなっていく姿に希望を見出すことはできなかった。 p.83 お母さんの介護のことを書くのは、同情してほしいからじゃなかった。ヤングケアラーって下駄を履きたいからでもない。あの瞬間に見た光を、笑いを、形にしたかったからだ。
  • 2025年5月11日
    コンビニ人間
    コンビニ人間
    読書好きの人に芥川賞の話をすると、「コンビニ人間面白いですよね」と言われることが多く、3年半ぶりに再読。文学フリマに向かう電車とバスの中で読み終える。 以前読んだ時よりも格段に面白く感じて、主人公に共感する部分もたくさんあって、3年半の間に自分の感性が変わったのかもしれないと考える。 p.61 皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。私にはそれが迷惑だったし、傲慢で鬱陶しかった。 p.70 何かを見下している人は、特に目の形が面白くなる。そこに、反論に対する怯えや警戒、もしくは、反論してくるなら受けてたってやるぞという好戦的な光が宿っている場合もあれば、無意識に見下しているときは、優越感の混ざった恍惚とした快楽でできた液体に目玉が浸り、膜が張っている場合もある。 p.100 妹はなんだか勝手に話を作り上げて感動していた。わたしが「治った」と言わんばかりのその様子に、こんな簡単なことでいいならさっさと指示を出してくれれば遠回りせずに済んだのに、と思った。 p.123 「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。でもね、僕を追いだしたら、ますます皆はあなたを裁く。だからあなたは僕を飼い続けるしかないんだ」
  • 2025年5月5日
    花粉はつらいよ
    一年中アレルギーの薬を飲んでいるが、それでも鼻炎症状が治まらず箱ティッシュを抱えて泣きたくなることがある。鼻にティッシュを詰めたままマスクで隠して仕事をすることもある。花粉症って本当につらい。でも花粉症に苦しんでいる仲間がこんなにたくさんいると思うとちょっと嬉しい。 p.27 だから、くしゃみのことが好きだ。その勢いが、ぶざまさが、体を守ろうとする否応なさが。 p.102 私は人がくしゃみをする姿が好きだった。気持ちが追いつかない内に身体が強制的に動かされ、誤魔化せない個性がそこに現れる。
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