勝村巌
@katsumura
2025年8月14日

日本写真史(上)
鳥原学
読み終わった
日本における写真の歴史を時系列で詳細にまとめている新書。江戸期から幕末、明治維新における写真技術の日本での受容から、明治大正を経て1970年台の高度経済成長期までの期間に、写真が記録や報道と関連してどのような変遷を追ってきたかを、その時代ごとの代表的な写真家と合わせて紹介していく。
日本の初期の写真はペリー来航と深い関係があった、と言うのは面白い話だし、その後、日清、日露、二つの対戦、朝鮮戦争やベトナム戦争、というものの報道が写真の受容に大きな意味を持っていた、ということが分かる構成になっている。
写真の開発国のフランスやその後、写真の中心となるアメリカでもクリミア戦争や南北戦争が写真の初期の活躍の場であったことを考えるとそれもその通りなのだろうと思う。
しかし、日本では藤田嗣治、宮本三郎、熊谷守一なども従軍させて戦争記録画を描かせたわけだが、そこで写真と絵画の棲み分けを大本営がどのように捉えていたかについてはもう少し詳細に調べてみたい。
戦後には編集者、デザイナーと写真家が組んでフォトルポルタージュなどでセンセーショナルなものを発表するのが職業カメラマンの大きな苦れとなるわけで、全然戦後ではその辺りがベテランカメラマンと新人カメラマンの軋轢となり、そこに論争が生まれ表現が深まっていくわけだが、そういう在りし日の論争についても流れや文脈を知れて大変勉強になった。
名取洋之助、土門拳、木村伊兵衛、石元泰博、奈良原一高、東松照明、森山大道、中平卓馬などの理論や実践の文脈が簡潔にまとめられているし、それと合わせて、亀倉雄策、原弘、などグラフ誌で共に仕事をしたデザイナーなどの名前も聞き覚えのある人たちで、面白いエピソードもあり、大変勉強になった。
下巻がどうなるか非常に楽しみだ。

