CandidE "桜の園/プロポーズ/熊" 2025年8月15日

CandidE
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@araxia
2025年8月15日
桜の園/プロポーズ/熊
桜の園/プロポーズ/熊
アントーン・パーヴロヴィチ・チェーホフ,
浦雅春
『桜の園』をチェーホフの遺言として読む。不条理や無力を笑いに引き受けよ、と。 もし過去を一日だけ完全再生できるなら、1904年1月17日(ロシア旧暦。新暦では1月30日)、モスクワ芸術座での初演、44歳の誕生日と作家生活25年を兼ねた祝賀に立ち会いたい。祝辞を受けながら咳き込む作家の姿を一目見たい。 44歳の逝去は、現代基準では早すぎるかも知らない。けれども当時を思えば、結核を抱えながらその歳まで書き続けたこと自体、相当にタフであり稀有だ。やりきれたかどうかは当人のみが知る。ただ、死の直前まで戯曲を仕上げ、初演を見届けたことは、職業作家としてひとつの到達点を迎えたと言えよう。この演目を作者は喜劇と主張し、演出は悲劇と志向した。その捩れも踏まえた悲喜交々の瞬間を一読者としてライブで祝福したい。涙ではなく乾いた笑みを浮かべて。 我々の寿命や医療の行方はわからない。それでもチェーホフより長く生きられるのなら、『桜の園』に至るまでの、もう一冊分の時間がある。人生の不条理や無力を、慎ましい喜劇として受けとめる修練の日々と共に。軽やかに。
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