
comi_inu
@pandarabun
2025年3月7日

断片的なものの社会学
岸政彦
かつて読んだ
オールタイムベスト
これを読んだときに坂口安吾の『文学のふるさと』を思い出した。
「生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。(略)モラルがないということ自体がモラルであると同じように、救いがないということ自体が救いであります。
私は文学のふるさと、或いは人間のふるさとを、ここに見ます。文学はここから始まる――私は、そうも思います。」
文学になる以前の物語の断片、生存の孤独がここにはある。そしてその生々しさを真摯に集め、考える学者がこの世にいる。
この作品を読めば、ごく個人的で誰も知る由のない出来事たち、意識した瞬間に意味を持たなくなるような事柄たち、夥しい数の人間のひとりひとりの中に込められたとるに足らない物語たちの結晶体がわたしたちが生きるこの社会であるのだとよくわかる。
確かに社会学の本である。社会学の本でありながら、ああ人間って、人生ってそうだよなあとしみじみさせる一冊でもある。
道端に置かれた巨大なアロエの鉢に水をやるひとがいるのだと、そう考える時間をくれた作品だ。
