山口慎太朗 "山月記・李陵 他九篇" 2025年8月19日

山月記・李陵 他九篇
本屋で働いていますと膨大な岩波文庫の緑色の背は蠱惑的で濃霧んごた視界がゆらゆら揺れたりしますが高校の現代文の授業で読んだ『山月記』のおもろさみたいなものを思い出したので買った。一編目の『李陵』のおもろさが衝撃的だった。二人の人間を交互に描くカットバック的手法は物を語る時によくある移動手段ですが、このような挙動は初めて見たのでもはや嬉しいです。李陵→司馬遷と主人公が移るところでこの二人の対比かと思いきや、いや対比ではあるのだけれど、李陵と蘇武の方がわかりやすくコントラストになっており、司馬遷のポジション取りが見たことない変なところにおる。人物像としての対比が李陵と蘇武なら、ジャンル的対比(タルコフスキーかと思ってたら途中からタランティーノになるみたいなの)が李陵と司馬遷にあって、李陵と司馬遷が全然お互いにあんま会ったことないし興味もねえのが渋い。そしてありえないぐらいペース配分が完璧だ。丁寧すぎる。中島敦はオバケなのである。と、こう書いていて思ったがこれは俺が脚本を読む時に使っている脳みそだ。コーエン兄弟に映画化してほしい。めちゃめちゃおもろかった。
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