
CandidE
@araxia
2025年8月17日

大尉の娘
プーシキン,
坂庭淳史
読み終わった
後にトルストイやドストエフスキーにも影響を与えた、史実(プガチョフの乱)を土台にフィクションを織り込んだロシア歴史小説の雛形。普通に面白かった。そして同時に考えたのは、召使いのこと。チェーホフの『桜の園』。
『大尉の娘』のサヴェーリイチは、主人に忠実でありながら諫め役として働く、いわば外部の良心。対してチェーホフ『桜の園』のフィールスは、解放後に取り残された旧体制の象徴で、誰にも聞かれない独白とともに舞台に取り残される。その言葉には、チェーホフ自身の遺言の響きがある。突き刺さる。
すなわち『大尉の娘』は、主従関係が機能していた前史を描き、『桜の園』は、その余波の中で貴族世界が終幕へ傾く時節を描く。プーシキンは召使いに倫理の声を託して歴史を具体化し、チェーホフはその系譜の終点で、最後の言葉を召使いに託して旧世界に弔鐘を鳴らした。
こうして十九世紀ロシア文学が私の中で一本の線として結ばれる。チェーホフの遺言で完成したその連関が、実に感慨深い。

