句読点 "不死身の特攻兵 軍神はなぜ上..." 2025年9月5日

不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか
特攻を美化する人たちに読んでほしい1冊。 太平洋戦争末期、物資も枯渇し有効な戦術が打てなくなった日本軍が最後の悪あがきで生み出した特攻作戦。 最初のうちは、アメリカ軍側も「まさかそんなことはしないだろう」という予想を超えた戦術的にはあり得ない作戦だったため予測できずに、いくばくかの戦果をあげた。それに味を占めた日本軍は「この危機敵状況を打開するためにはやはり特攻しかない」と、最初は「特別」な作戦だったはずが、常態化していく。 当然アメリカ軍側も特攻の対策をすぐに講じて、特攻による攻撃はほとんど意味をなさなくなる。それでも日本軍は特攻作戦に固執し、前途ある若者の命を次々と捨てさせた。後半になるにつれて優秀なパイロットもまともな機体も無くなり、離着陸がやっとというような未熟な少年飛行兵にまで、布張りの翼のおもちゃのような練習機で特攻に出させた。 そもそも特攻は優秀なパイロット、物資の枯渇する中でただでさえ貴重な飛行機を一度きりの作戦で使い捨てる戦術的にも劣った作戦である。なるべくなら損傷を少なくさせ、何度でも出撃させる方が戦術的には優れていたはずなのになぜそれをしなかったのか。 ただ日本国のために死んでこいというだけの、「国のために尊い命を捧げた若者がたくさんいたのだから、銃後の国民も命を賭して最後まで戦争を継続しろ」というメッセージを出すためだけに若者の命を捨てさせた。日本が戦争を継続するためだけに、国民の戦意を失わせないためだけに、多くの命を捨てさせた。国体という共同幻想を維持するためだけに生贄にされた。まともな戦術ではなく、宗教的儀式に近いものだったのだろう。人柱のような。当然そんなもののために多くの若者の命を捨てさせた罪は深い。 そんな無謀な作戦の中、9回も特攻出撃命令を出されながらも毎回生還した特攻兵がいた。本書の主人公佐々木友次さんである。本書刊行直前まで、92歳まで生き続けた。 生きて帰ってくるたびに、上官から「貴様なぜ生きて帰って来た!そんなに命が惜しいのか。次は必ず死んでこい」と言われながらも、生きて帰って来た。それには、日露戦争の激戦を生き抜いた父親の言葉と、同じ特攻隊員であり、特攻作戦に反対して機体を自らの判断で体当たりせずとも爆弾を投下できるように変更させた上官の存在があった。少しでもタイミングが悪ければ残らなかった貴重な証言がたくさん残された。佐々木さん個人の生きる意志と、意志だけでは説明がつかない偶然、運のようなもので奇跡的に生還できたのだが、必ず死んでこいという状況の中でも生きる意志を失わなかった姿からはとても勇気づけられる。 つくづく日本軍の上層部の無能さ、戦後ものうのうと生き延びて、自らの下した非人道的な作戦を美化、正当化するために特攻を美化する本を出版した上官たちに腹が立つ。自らは安全なところにいて、若者や地位の低い下士官に特攻を押し付けた。 特攻の問題は、命令した側と命令された側に分けて考えるべきだ。命令した側の責任は厳しく批判されねばならないのに、命令された側を盾にして「特攻を侮辱することは、特攻のために命を捨てた若者たちを侮辱することだ」として論点をずらさせる。
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