
ryomoriwaki
@ryomoriwaki
2025年9月10日

草の花
福永武彦
読み終わった
汐見が持つ芸術に対する純粋性への憧れと、現実の人間関係における純潔さへの願望が複雑に絡み合っている。
汐見は詩や文学といった芸術の世界での「純粋さ」を理想としながら、同時に恋愛や友情といった私的な関係においても同様の純潔さを求めてしまう。この二つの領域での純潔さを同一視してしまうことで、汐見は深い孤独に陥る。この矛盾が彼の愛の体験を複雑にし、最終的に死への憧憬へと導いていく。
「僕はこの計画を多少芝居じみているとは思った。しかし作品を美しく構成することが芸術家の仕事だとすれば、現実を美しく構成することも、また一つのしごとではないだろうか。特に僕のような失敗した芸術家にとって、最後の一頁を小説にではなく、現実の上に書きたいと思うことは、せめてもの貧しい願いだった。」
今まで読んだ本の中で一番繊細で美しい恋愛小説だった。

