
ゆうすけ | オガノート
@ogayuppy
2025年9月10日

立体と鏡像で読み解く生命の仕組み
黒栁正典
読み終わった
誤解しないで欲しいのはこの本は例外的に読んだもので、ふだんからこんなテーマの読書をしているわけではありません……たまたま昨日読み終えたのがこれだったというだけです。
最近の読書において「紀伊国屋ルーレット」というものを作成して、ランダムに選ばれた本棚から本を一冊選ぶということをやっています(この遊びに関してはまた後日)。
当初はこれで意識外の本に出会えるぞとワクワクしていたのですが……かれこれ10回ほど回していますが、このルーレットは毎回僕に試練ばかり与えてきます。
今回当たった番号の棚の前へ行き「有機化学」のジャンル名を見たときは絶望でした。学生時代から科学・化学は本当に苦手だったので。
その中から、辛うじて興味を持てたのがこちらの「立体と鏡像で読み解く生命の仕組み」です。
地球の生物の普遍の原則「ホモキラリティー」をテーマに、地球でこうして生きている奇跡を学ぶ。ちょっと前に歴史の本を読んだばかりだったので、そこからさらに生命誕生・分子レベルにまでズームアウト(ズームイン?)するような感覚でした。
立体構造である分子にはD型とL型の鏡像異性体が存在するはずですが、人類含め生物はもれなく(D-アミノ酸ではなく)L-アミノ酸だけで構成され、エネルギー源としては(L-糖ではなく)D-糖だけを摂取して生きている――この謎に迫ろうというのが本筋です。
まず地球にどうやって生物が誕生したのか。海底の熱による化学反応か、はたまた隕石に付着していた物質か――導入からもう壮大で、少し眩暈がします。
幾多の化学者がこれに挑みましたが、説得力のあるものを発見するまでで、「これ」という決定的なことは分かっていません。
なお、これを「化学進化」というらしいです。読んでも「らしい」という自信のない語尾しか使えないことをご了承ください……
そこから上記のホモキラリティーが成立するまでの過程もよく分かっていません。
結果、ホモキラリティーの方がエネルギー補給や遺伝等、生存に都合が良かったのですが、それはあくまで「結果論」であって、どの時点からそれが起きてどういうスピードで鏡像異性体の反対側の分子が弾かれていったのかは謎のままです。
化学門外漢の僕にはっきり分かったのは、巨大な奇跡が2回起きたということだけです。
そのことだけでも、どれほどの確率の上に今の自分が成り立っているかを感じるには十分な読書でした。
例えば、上記の「化学進化」にしろ「ホモキラリティー」にしろ、それらの最初の奇跡の反応が1年――いえ、1秒遅れていただけで、現在の地球上の生物の構成は全く違ったものになっていたでしょう。
人間もどの生き物も、無限分の一の奇跡の上に存在していて、そういう視点から見ると何もかも平等に感じます。
僕もあなた、町ですれ違った人もテレビに映る有名人も、みんな同じ奇跡的L-アミノ酸の結晶体です。
「化学の大きな謎に迫ってみよう」という知的欲求の本筋とは違う心の着地かもしれませんが、とても壮大で面白い体験ができました。ありがとう、ルーレット。
――ただ、次はもっと守備範囲内の読書になれば良いなと思います。
追伸:
章末のコラムの中に「セレンディピティ」という言葉の解説がありました。「思いがけない発見」「意図したものとは違う予想外の発見」といった意味です。(ちなみに元ネタは「セレンディップの3人の王子」という物語)
ルーレットでこの本に出会えたのもセレンディピティ。「セレンディピティ」という言葉に出会えたこと自体もセレンディピティ。
これからの人生もたくさんのセレンディピティに出会えますように。