たるたる "タイタン (講談社タイガ)" 2025年9月12日

たるたる
@miyabi
2025年9月12日
タイタン (講談社タイガ)
野崎まどの『タイタン』が面白かった理由を幾つかの角度から思いつくままに書いてみたい。 基本ネタバレ無しです。 ①SFとして秀逸だったこと。数百年先の未来、超高性能AIタイタンのおかげで人類があらゆる労働や仕事から解放され豊かで満たされている世界での思考実験が非常に刺激的だった。 ②主人公2人、カウンセラーと患者の旅の様子のすべての描写が、楽しく美しく、ドラマチックでエモーショナルでまさにロードムービーのお手本のようにずっと眺めていたいものだったこと。 こんなふうに世界を旅できたら、色んな経験をしながら語り合いながら旅ができたらと心底思えたこと。 ③全ての展開がこちらの予想を越えるものだったこと。 自分はすれた本読みだから、舞台装置や登場人物の台詞からこんな展開になるんだろうなみたいな先読みをしがち(しかも当たりがち)だけど、この本は大きな局面でそこを全て外してくれました。驚き、ワクワクする楽しみを久々に味わいました。 ④仕事とは何か?への真摯な問いかけ どちらかというとワーカーホリックで、ある意味作中のナレイン寄りな自分ですので、この問いかけに対して真摯に向き合っていく主人公たちの拾い上げていく,仕事とは何か?その本質は?という問いかけは結論も含めて深く深く刺さりました。 ⑤読んだ人には勿論のことながらですが、AIのコイオスが非常に魅力的だったこと。カウンセラーの内匠成果(ないしょうせいか)さんの変化も魅力的でしたが、コイオスのそれは反則級でした あんなに健気でいじらしく性格のかわいらしいキャラクターでありつつも、全知全能クラスの高性能のAIはいない。 ⑥少し本編の内容に関わりますが、1体で10億人以上の人類の世話をする、人類への奉仕をシステムの根幹に組み込まれたAIが何故機能低下を続けていくのか・業務過多でのうつ病に似た症状を発するのかの解答が、非常にアクロバティックながらきちんと成立している点。 ミステリーとしても高得点でした。 ⑦情景を喚起させる筆力と、そこで幻視させる世界が際立っていた点。 各シーンに出会ったときの感動を減じたくないので具体的に書きませんが、その情景がくっきりと目に浮かびますしそのスケールの大きさや細部の儚さと美しさ,そして悍ましさ。ハリウッドで映画化しても陳腐化しないと思います。 ⑧そろそろ最後にしないと却って読みたいと思う人を減らしてしまうのですが最後に一つ。 この作品はディストピアものではなくユートピアものと思われそうですが、本当にそうなのかな?人類的には本当に幸せ?と受け手によってはほんの一滴の苦味を残してくれているその塩梅も個人的には良かったです。
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