
𝕥𝕦𝕞𝕦𝕘𝕦
@tumugu
2024年2月16日

東方綺譚
マルグリット・ユルスナール,
多田智満子
読み終わった
▪️「源氏の君の最後の恋」
ちょうど源氏物語が大河で活気づいてるようなのでマルグリット・ユルスナールが源氏物語の二次創作書いてたの思い出して『東方綺譚』収録の「源氏の君の最後の恋」を読んだのだった
源氏物語の「幻」と「匂宮」の間にある「雲隠」(本文は現存せず、巻名のみ)にあたる部分、光源氏が隠居してから亡くなるまでの部分をユルスナールのオリジナル展開で書いてるのが「源氏の君の最後の恋」なんだけど、紫式部が敢えて書かなかったのか、本文はあったけれど平安時代以降の戦乱で失われてしまったのかを思いながら読むのも楽しかった
わたしは源氏物語はうっすらあらすじを知ってる程度なんだけど、爆モテ光の君時代があっても帝にはなれず、歳をとって栄光の日々は過ぎ去り、遠い空の黄昏の埋み火を盲いてゆく目で眺めているような光源氏の最期をユルスナールが抽出したのは見事だなあと思う
源氏物語って光源氏の爆イケモテ期のイメージがどうしても強く感じてしまうけどたぶん当時の仏教の価値観や末法思想が反映されていて(帝もわりとよく出家してる)どんなに栄華を誇っていてもいずれは衰退してゆくって話なんだな、という理解なんだけど(本居宣長が提唱した「もののあはれ」)このあたり源氏物語にくわしい方ならより楽しめるのではないかしら
マルグリット・ユルスナールは生涯の同性のパートナーと出会う以前に愛した男性もまた同性愛者であったことから「どんなに愛しても報われない」ことを身を以てあじわい、その苦悩を作品に落とし込んでいるんですね
「源氏の君の最後の恋」は老いて隠居し、目が不自由になってゆく光源氏をかつての情人のひとりである花散里が、自分がかつての情人であったことを隠して何度も会いにいき最期を看取るという話で、「老いた光源氏をどんなに献身的に愛しても報われない花散里」という構図が、かつてのユルスナールが体験した、報われなかった思いを古典文学をとおして昇華しているかのようで、本当に苦しかったのだろうな
多田智満子の訳がとにかく美しくて、あと光源氏の気持ち悪い部分がきっちりちゃんと気持ち悪いのがよいです
白水Uブックスの『東方綺譚』はユルスナールの本の中では一番手に取りやすい価格なのでおすすめ


