4nil
@4nil
2025年9月21日

世界99 下
村田沙耶香
読み終わった
2025ベスト候補
オーディオブックでこれを聴きながら通勤していたこの時期の私は確実に元気がなかったと思う。
真綿どころか石綿で首を絞めるような世界からの圧力も、「リセット」が訪れようと石の下から這い出てくるミミズのような彼らの(あるいは私たちの)粘着質な加害性も、デフォルメを効かせた部分はあれど描写の「嫌さ」にやたらリアリティがあって本当にうんざりした。
が、それら鈍色の暴力性に彩られた作品の中で私がことさらに胸を抉られたのは姑の介護のため家を離れる母を描写する「家を出ていく母は身軽だった(中略)私が中学生の頃修学旅行に使ったグレーのカバンに、少しの着替えを詰め込んだ母は〜」というたったそれだけの一節だった。
意図したものかはわからないが、全編にわたって掠れた油性マジックで書かれたような物語の中にうっかり万年筆で書き込んでしまったような一文が妙に痛かった。