かのうし "リスボン大地震" 2025年3月7日

かのうし
かのうし
@kano
2025年3月7日
リスボン大地震
リスボン大地震
ニコラス・シュラディ,
山田和子
半年程前、読書記録を習慣づけようと思ったことがあった。三日坊主に終わったのだけれど、当時の感想を要約して残しておく。 「危機が人類を進歩させる」「世の中を変えるのには独裁者が必要だ」といった言説を目にすることがある。リスボン大地震とその復興の過程はまさにこれらの言説の証左となるかもしれない。 1755年の大地震はリスボンの町を破壊し尽くした。ヨーロッパで最も敬虔なキリスト教国家であったポルトガル。「なぜリスボンに祝福でなく災厄が?」万聖節の地震は、ヨーロッパ中のキリスト教徒が抱いていた神への信頼を揺るがせ、近代へと踏み出すきっかけとなった。 震災で全てが瓦礫と化す前、ポルトガルは植民地経営の利益を貴族と聖職者が貪り、庶民は極貧であるという歪な国家だった。平民上がりの宰相カルヴァーリョは見事な初期対応で復興へと踏み出し、同時に富を貪る貴族と聖職者を一掃する。 カルヴァーリョが優秀だったのは間違いない。驚くべき速さで復興をなしとげ、社会を一新し、国民への教育基盤を整えた。しかし、その手法は教会が行っていた異端審問のように苛烈であり、まさに専制・独裁と言うに等しいものだった。カルヴァーリョの光と影こそが本書の魅力だ。 本書を読んで、同じ地震大国である日本への教訓を見出すことも出来るかもしれない。しかし、私は教訓を見出すよりも「理想の政治」「理想の為政者」について考えてしまった。仮にカルヴァーリョが地震を経験しなかったらどんな宰相だっただろうか、専制に至らずに社会を変えることは出来なかったのか、そして初めに挙げた2つの言説は、果たして正しいのか。大災害を軸とした良質な伝記であり、多くのことを考えさせてくれた。
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