DN/HP "オープン・ウォーター" 2025年9月30日

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2025年9月30日
オープン・ウォーター
オープン・ウォーター
ケイレブ・アズマー・ネルソン,
下田明子
最初の小説にはそれまでのLifeが全部入っている、そう思っているからこの小説も作家の体験がベースになっているのだろうと想像しながら読んだ。サウスイースト・ロンドンに暮らす黒人の”きみ“の日常。「いったん家を出たら二度と無傷で帰れないかも、そんな思い」が忘れられない日々、拭えないトラウマ、その向こう側にいる“彼女”。そんな状況も悲しみや苦悩までが愛と一緒に、じっくり読みたいとても美しい文章とそれに寄り添ってくれるようなリズム(といいたい)で語られる、ポルノではなくしっかりと描かれた世界のなかにある“ラブストーリー”。 印象的に登場するミュージシャンたちの固有名詞やエピソード。DJスクリューが語る曲作りに、『バター』のラップに合わせたファイフの頭の動きに、ディジー・ラスカルの最初のアルバムが録音されたテープに、あるいは半地下のフロアでのダンスに、床屋の軒先で回されるジョイントに、“きみ”たちが感じる小さな自由や真実。この物語にもそれらが書き込められているのだと思う。この本から”きみ”たちと同じようにそれらを感じることは出来ないかもしれないけれど、この物語を通しても「見られているのに認められていない、うんざりするような日常」のなかで自由や真実を感じる”きみ“たち、彼女彼等の姿を、しっかりと見ること、ひとりひとりのLifeをたしかに認めることは出来るはずだと思う。ATCQのアルバムについての文章に倣うなら、この小説もそのLifeを見せるため、読ませるため、そして、自由のためのもの、だから。「生きようとする意志は抵抗だ」、それを物語ることもまた抵抗だ。美しい文章に魅了されながらも、それをしっかりと読み取れれば彼女彼等の物語が書き続けられる意味もまた少しだけ分る気がする。
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