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2025年10月6日

ピザマンの事件簿 デリバリーは命がけ (ヴィレッジブックス F フ 14-1)
L・T・フォークス,
鈴木恵
かつて読んだ
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「これは仲間と労働、いい愛と悪い愛、それと殺人事件をめぐる物語だ。」
たしかに。
刑務所帰りのOnce againモノというジャンルがある。そこでは更生しようとしたり、再度犯罪で一山当てようとしたり、新しい友人に影響を受けたり昔の仲間とトラブったり、事件に巻き込まれたり、うまくいったり、やっぱりいかなかったりするわけだけれど、この小説は、仲間や環境に恵まれた主人公の“更生”、やり直す人生がご都合主義と思えるほどに上手くいくパターン。
クライム・ノベルやミステリとして読むと物足りないというか、弱いのだけれど、この小説で作者がフォーカスして書きたかったのは、犯罪や殺人(の解決)よりも最初に引いた冒頭の一文でいうなら「仲間と労働」とそこで彼ら彼女らの「いい愛」、優しさや良心、それによって救われる人生なのだった。
訳者あとがきで予想しているようにこの小説が作者の自伝的要素を含んでいるというのはきっと当たっている気がするし、そう思えばご都合主義に感じた部分も更に納得できる。その実際にあった、かもしれない愛や良心に触れるとあたたかい気持ちになって、もう少しこの人生も世界も信じてみたくなる。というのは大袈裟な気もするけれど、それでもこの小説を読んだあとには「人生ってのは不思議なもんだ。うまくいかないときは我慢していればいい。そうすればいまにいいことが巡ってくるかもしれない」、この小説のようにはいいことは巡ってこないかもしれないけれど、そんな言葉も信じ込みたくなる。さらに大袈裟なことをいえばこの小説には希望があった、と少し思ってしまった。
誰かも言っていたけれど隠れた名作。続編も読みたい。




