
あむ
@Petrichor
2025年10月8日

ボトルネック
米澤穂信
読み終わった
自分という人間が生きることで他にどんな影響を与えるのか?
その意味がわかったとき「生まれてきてよかったのか否か」がわかるのだと思う
私はそれを知りたいとも、知りたくないとも強く思った
米澤穂信先生「らしさ」が凝縮された一冊です
以下ネタバレ含みます
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米澤穂信先生の作品は高校生のときに「儚い羊たちの祝宴」を読んだときからずっと好きだ。
先生の物語には無駄がない。
1文1文、いや、1文字1文字にちゃんと意味があって、なおかつ初見では絶対にそれに気づかせない。
それがわかっているのに、つい推理を忘れて夢中で読んでしまって、先生の仕掛けにどんどん気づかされて、慌ててページを戻る時間がなにより好きだ。
そして先生の作品のラストはいつだって残酷だ。
それもわかっていたはずなのに、今回もギリギリまで希望を抱いて、そして打ちのめされた。
この無力感
でもそれを上回る満足感
ひとつも零さず回収された伏線の納得感
やはり私は一番好きな作家を変えられないようだ。
物語が紐解かれるにつれて、ずっとうっすら滲むリョウの「生まれてこなければよかった」の想いが苦しかった。
それを必死に気づかないように、自覚しないようにする様子もまた、とても痛々しくて。
軽快に進む間違い探しのストーリーがリョウを絶望させるカウントダウンだっただなんて誰が予想する?
リョウが異世界で過ごした3日間はもしかしたら長い長い夢だったのかもしれない。
ノゾミの死をきっかけに知らず知らずの内にリョウは心を病み、夢と現実の区別がつかないほどに追いつめられていたのかもしれない。
リョウにとってサキは自分の想像上の理想の姿だったのかもしれない。
これは救いの考え方だ。
そして、リョウが自分の世界に戻ってきたとき、正気に戻るきっかけがあったこともまた、救いだった。
きっと、リョウが3日間見た夢は、あのまま曲がりくねった道を戻り、苦しみながらも生き方を変えるきっかけになるはずだった。
でも、それでも彼を救えない。
なぜなら最後に彼を追いつめたのは「夢の剣」でもなんでもなく、
ただの現実だったのだから。


