
記憶の本棚
@kioku-no-hondana
2025年10月24日
世界カフェ紀行
中央公論新社
読み終わった
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外気の冷たさで曇ったガラス窓を通して、淡い室内灯でほのかに浮かびあがるカフェの内部……。
そしてシナモン入りのココアで一日の疲れと憂さを忘れる冬の夕刻……。 (アンカラの冬景色より)
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(子どもの頃、漠然と描いていた大人の世界。
憧れと、切なさを感じる、キラキラした世界。
大人になった今、なんだか先述した文章を読んでいて、あぁそんな世界を描いてはわくわくしていたなぁとふと思い出した)
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やがてつるされたランプに光がともる。するとそこはもう夢の世界だ。人々はコーヒーを飲み、ティを飲み、お喋りをし、水煙草を喫っている。ぼくのうしろには奥深くカフェの部屋が続いている。 (紫に煙る鏡のなかの迷宮)
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そこに来ているのは全員が暗い男や暗い女で、本当は明るいのかもしれないが、そこの暗闇にひたり込むと、人生とか世の中とかがいかに暗いかということを考えるほかはないのだった。そういう憂鬱が気持よかった。いまそういう快楽を知る人は少ない。
(暗い暗い快楽)
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自分というものが、よくわからなかった。何かに憧れていて、けれどそれが何なのか、わからなかった。どこかを見ているつもりで、けれど自分の前に広がる空間があまりに茫漠としていて、何を見ているのかわからなかった。自分自身も取りとめがないように思われた。
窓の外のビルに灯がともされてゆく光景を覚えている。点いて、また消される灯もある。夕靄に包まれたその明滅は、はるか彼方の、夢のなかの場面のように見える。同時に、遠くからの光がその夢をくぐって、ここまでやってきたようにも見える。遠い世界から届けられた呼びかけの合図のように瞬いている光……。 (カフェテリアのざわめきのなかで)
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「あんみつのあんはつぶあんですか、こしあんですか」と訊ねると、まるで「おたくのトイレのトイレットペーパーはシングルですか、二枚重ねですか」とでも訊いたみたいな顔をされることがある。 (甘味喫茶について)
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