
記憶の本棚
@kioku-no-hondana
ミステリーを主に読んでいます📔⋆ ꙳ₓ
あとはクスッと笑えたり、心が軽くなるような物語やエッセイにも出会いたいです𓂃⋆。
- 2026年2月22日
魔眼の匣の殺人今村昌弘読み終わった予言×クローズドサークル 死の予言がもたらす恐怖、予言の真偽、少人数の中で殺人未遂や殺人が起きたことによる緊迫感… 前回に引き続き、特殊な設定でのクローズドサークルの謎解きがとっても面白かった。 - 2026年2月7日
アナヅラさま四島祐之介読み終わった第24回『このミステリーがすごい!』大賞 【文庫グランプリ受賞作】 ------------------------------ 人間も車も、死体も凶器も、なんでも飲み込み、無かったことにしてくれるブラックホールのような大穴を所有することになったら… 大穴はやがて、持ち主の理性すらも無きものにしてゆく… 都市伝説×ミステリーで物語は進んでいき、途中からしっかりとミステリーの仕掛けがあり、最後その仕掛けに気付いた時には「やられた〜!!」とどんでん返しの面白さ、痛快さを味わえる作品でした。 ずっとスピードある展開が続き、“早く真相が知りたい!”と、最後まで楽しく一気読みでした。 人間の持つ心の闇やトラウマが引き起こす、復讐とは、正義とは、といったことを考えずにはいられない深いテーマもあり、最後の終わり方もまたいろいろと想像を掻き立てられる終わり方で、味わい深かった。 - 2026年2月3日
満願米澤穂信読み終わった『夜警』『死人宿』『柘榴』『万灯』『関守』『満願』の全六篇。 史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。 --------------------------- “なぜそれは起こったのか”という疑問に対して、話の最後に導き出される答えがまぁ、不穏で戦慄しちゃう短篇たちで、どのお話でも最後は「待って、そういうことなの!?そんな……。(衝撃につき絶句)」となってしまった、最高に面白い作品たちだった。 『夜警』『万灯』『関守』が特に好み。 そして米澤さんの紡ぐ言葉、表現の美しさがまた素晴らしかった。 --------------------------- 非のない娘たちをあれほど怯えさせたことは、何年経っても忘れられない。いまでも胸が締めつけられるようだ。 ただ、こうした思い出のひとつひとつに必ず教訓がある。 私は娘たちと共に育った、ということだ。(『柘榴』より) 日本は秋深く、街路沿いに植えられたイチョウが輝くように色づいている。空にはうろこ雲がたなびき、窓を開ければ涼やかな風が吹き込んでくる。懐かしかった。(『万灯』より) これほど多くの願いが叶っているのだ。私にも道がないはずはない。思えば没論理な開き直りだが、陰々滅々と手元だけを見つめる日々にふっと薫風が吹き込んで、悪い夢が払われたような心持ちがした。(『満願』より) - 2026年2月1日
屍人荘の殺人今村昌弘読み終わったこんな設定のクローズドサークル読んだことない!! ぶっ飛んだ設定なのに、あながち絶対に起こらないとも断言できない展開で、だけどトリックや殺人の動機は全然ぶっ飛んでいないどころか、緻密に計算されていたり、至るところに伏線も張られていて、最後の謎解きで鮮やかに回収されるのが最高に面白かった。 ミステリ好き、クローズドサークル好きの方々に、超絶おすすめします!! - 2026年1月29日
プロジェクト・ヘイル・メアリー 下アンディ・ウィアー,小野田和子,鷲尾直広読み終わったぼくは“ただひとり生き残った宇宙探検家“から“変てこなあたらしいルームメイトといっしょのやつ”になった。 ------------------------ バディものの展開にとてもわくわくした。 科学的な説明や理論が相変わらずちんぷんかんぷんで不本意ながら科学パートはほぼ流し読みでしたが、主人公が希望と絶望のあいだを幾度となくいったりきたりするストーリー展開と、ピンチを笑い飛ばすユーモアにあふれた主人公のキャラクターに救われた。そして何より友好的で賢く紳士で素直なバディのキャラクターがまた最高だった。 「しあわせ!しあわせ、しあわせ、しあわせ!」とバディがキーキー声で答える。(キーキー声の意味も、終盤にもなるともうわかってくるから面白い) 最後の章にグッときた。 3月公開の映画も絶対観たい!! - 2026年1月26日
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上アンディ・ウィアー,小野田和子読み終わった人類は何千年ものあいだ夜空の星を見上げて、あそこにはなにがあるのだろうと考えてきた。きみたちは星を見ることはなかったのに、それでも宇宙旅行に乗り出した。ほんとうに驚くべき存在だな、きみたちは。科学の天才だ。 ------------------------ 私に科学の知識と興味があったら、もっと面白くもっとわくわくしながら読めたんだろうなぁ…と思った。 科学に関する描写や説明、ちんぷんかんぷん。笑 それでもこの先の展開は気になるし、なぜ主人公がクルーになったのかも気になるし、心の支えになりつつある相棒との今後も気になるし、人類の行く末も気になる!! - 2026年1月11日
マカン・マラン古内一絵読み終わった仕方ないわよ。この世界に、本当になにもかもから自由な人なんて、どこにもいないわ。誰でも、何某かの負荷を抱えて生きているものよ。 ------------------------ 心に留めておきたい、宿しておきたい、バイブルのようなお守りのような一冊だった。 誰しも本当に自由な人間はいない。皆何かしらの枷を背負って、それでも自分で自分をいたわり、ご機嫌をとり、自分の人生を歩む。時に誰かに助けられたり、助けたりしながら。 シャールさんを蝕む病。私も似たような境遇を経験していて、シャールさんの気持ちが痛いほどわかる。早く次巻を読んで、元気な姿を取り戻したシャールさんに会いに行かねば。 - 2025年12月21日
火のないところに煙は芦沢央読み終わった短編なのに長編。怪談なのにミステリ。そしてフェイク・ドキュメンタリーなのに現実味を帯びてくる恐怖。 それぞれの短編からそれぞれの怪異な出来事が綴られるが、一話一話読み進めるごとに紡ぎ出される、いくつかの法則と共通点。 こんなに味わいながら、謎解きをしながら怪談を読んだのは初めてでした。 伏線回収の鮮やかさ、怪談を通して行われる謎解き、最高に面白かった!! - 2025年12月17日
風と共にゆとりぬ朝井リョウ読み終わったフォースオピニオン。このままだと私はあらゆる病院に現れてはお尻を見せつけ去っていく妖怪として名を馳せてしまう可能性がある。(『肛門記-中編-』より) --------------------------- 朝井リョウさん、あなた漫談でR-1優勝できるよ。 と思える程今作のエッセイも面白かった〜!! なんど「ぶはぁ!!」と吹き出したことか。 エッセイ3部作にとどまらず、4作目、5作目と書き続けて欲しい。 *眼科医とその後 *初めてのホームステイ *ファッションセンス外注元年 *肛門記(前編、中編、後編) あたりが特に好きでした。 次は『作家による本気の余興』の中で、共に常に公式にふざけられる場所を探しているという柚木麻子さんの作品を読もうかなと思っております。 柚木さんと言えば今話題の『BUTTER』🧸⋆。˚🧈 余興に全身全霊で向き合い、真剣にウケを狙っていく彼女が、どんな作品を書くのか、という謎の楽しみ方をしたいと思います𓂃⋆。 - 2025年12月15日
許されようとは思いません芦沢央読み終わったいざ唯花が産まれてくると、生活は一変した。泣き叫ぶ唯花がいつ泣き止むのか、あるいは何とか眠ってくれた唯花がいつまで眠っていてくれるのか、まるで見通しが立たない日々が続いた。わかることは永遠ではありえないということだけで、けれど私には常に永遠に等しかった。(『姉のように』より) ------------------------- 母と子の心理描写の巧みさよ。 子育てに奮闘した経験がある人には、まるで心の中を見透かされてるような、あの時感じた気持ちを言葉にするならこれだ!と思えるようなシーンがたくさんで、読んでるあいだ、何度も心をギュッと鷲掴みにされるような感覚だった。 そして今回もミスリードに気付けない自分の注意力、ひらめきの無さよ…◜ ॱଳ͘ ༘ יִ * 5話からなる短編ミステリ小説。 どの短編も、結末を読んで今まで思い描いていた世界が一変するような話たち。 一見してイヤミスのようにも感じるが、緻密な心理描写と巧妙なミスリードで「え⁉︎そういうことなの⁉︎」「はぁ、そうきたか」と感嘆させられる一冊だった。 - 2025年12月10日
爆弾呉勝浩読み終わった「ひとりでカッコをつける気ですか?」 「自己満足だ。独りよがりの我がままだ」 「それを、生きざまと呼ぶんでしょ?」 --------------------------------- 誰しも知らず知らずのうちに他人の命を秤にかけて、優先順位をつけてしまうこと。 誰からも存在価値を与えられなかった人間が抱く心の闇と世間への私怨。 それぞれ個人が抱く“悪”というものに対する概念や価値観、また自分の心の深淵に渦巻く悪を知ってしまった時の葛藤を描いた心理描写がとても印象的な作品だった。 ストーリー展開も、物語にぐんぐん引き込まれて一気読みだった。登場人物それぞれの視点から事件のピースが埋まっていく感じが絶妙で、ずっとずっと面白かった。繰り広げられる鮮やかな心理戦に、人の命がかかった謎解き。少しずつあばかれる事件の真相。最高でした。映画も観たくなった! - 2025年12月4日
13階段高野和明読み終わった---選考会が満場一致で選出した超弩級の江戸川乱歩賞受賞作--- およそ20年ぶりの再読。確か高校生の時に読んだのだが、犯人も結末も全然覚えてなくて、ただ面白かったという記憶だけ残っていたので、改めて推理しながら読んだ。 最後まで犯人がわからず、いろんな出来事の点と点が線になりはじめた時の驚きと興奮は、やはり最高に面白かった。 『法律は正しいのですか。本当に平等なのですか。地位のある人もない人も、頭のいい人も良くない人も、金のある人もない人も、悪い人間は犯した罪に見合うように、正しく裁かれているのですか。』 自分を、または自分の大切な人を傷つけた憎き相手が、法を持ってしても裁かれないことがあるということ。 私刑は何をもたらすのか。 死刑は本当に必要な制度なのか。 死刑に対しての恩赦の制度は機能していないという問題。 ……など、いろいろと考えさせられることも多かった。 - 2025年11月29日
噂(新潮文庫)荻原浩読み終わった---『えっ』と思わず声が出る 衝撃のラスト1行--- とは何ぞや!?と気になり購入。 本当に、衝撃のラスト1行だった。 最後の最後でまた新たな謎が湧き起こるんだけど、その謎の真相を最後の1行がスパーンと解き明かしてくれていて、感服の一言でした。 と同時にその真相に真の怖さを感じたり、「善と悪とは何かね」とやるせない気持ちになったり、でも何かこうわだかまっていた胸の奥がスカッとするような気もするし、豪快に笑い出したくなるような気持ちにもなったり、、、とにかくミステリー小説のなかでも最高の結末だと思いました。 最初の事件の犯人の散り方も唸るものがあった。 所轄の強行犯係ベテラン巡査部長の主人公と、本庁の若手警部補とのコンビという設定も面白かった。 所轄vs本庁とか、本庁の中での手柄争いとか、所轄に特別捜査本部が来るから所轄のお偉いさんは接待とか、大好きな「踊る大捜査線」でもよくでてくる描写があって、本当警察ってこんなかんじなんだろうなぁ😅と良くも悪くもなんとも言えない気持ちになったり。 そんなところもまた面白かったです。 - 2025年11月14日
時をかけるゆとり朝井リョウ読み終わった特に面白かった章でもメモしておこうかな…と今一度最初からパラパラとページをめくってみるものの、全部の章が面白すぎて選べない。 誰もが経験するような若さ故の無謀さだったり、そこから生まれる失敗だったり、イタイ奴だったなぁ〜という恥ずかしさだったり。でもその全てが愛すべき人生の一場面なんだなぁと思える、「ダメな日常もまるっと愛せる」そんな気持ちにしてくれるエッセイでした。 - 2025年11月10日
逆転美人藤崎翔読み終わった『紙の本でしかできない超絶トリック』って何よ!?と思い読んでみました。 いや〜ぁ、ミステリーのトリックはもう出尽くしたと思っていたけど、まだまだ新たな手法が生み出されるものですねぇ。 確かに、読んでいて「なんか違和感…」と感じる表現が多々あった。いやに虫のこと詳しく知ってるんだなとか、右肩左肩の言い回しとか。でも人って日常生活の中でいちいち気にして考えていると身が持たないから、自分に都合よく、あまり深く考えなくて済むような理屈を見つけて、なんとなく自分を納得させちゃうんだなぁと、この小説を読んで身に沁みました。 違和感は感じるのに、その正体と真意には気付けないんだよなぁ。 読みやすい文体とわかりやすい内容でさくさく読めます!さくさく読めすぎて、隠されたメッセージに気づけない程!!面白かった!! - 2025年11月6日
読んでる日記は人それぞれに方法があって、方針があって、ロマンがあるものです。 p8 日記の書き方の私なりのコツとして「感想を禁止する」と表現して紹介したことがあった。 まずは見たこと、あったことを書く、書けばおのずと、書かれたものが、悲しいのか、つらいのか、楽しいのかを語りだすのではと予感した。 p11 一度書いた熟語を、別のもう少しかっこいい言葉に変えられないだろうかと、欲を出して類語を辞書で引くことはよくある。 文末の一文を意図的にリズミカルにするために助詞を取るようなこともよくやる。 p17 辞書と相談しながら、意味のぎりぎりのきわを試すことを、自分にどんどん許す。 p19 「ワリオの森」と「テトリス」にはすでに人生の一部を明け渡す諦念の気分が固まっている。迷いなくずっと遊んでいる。 p58 ------------ 私も日記をずっと書いているのだが、もうその年の終わりあたりになると、自分が書いた日記帳が誰にも見られたくない扱いに困る特級呪物みたいに思えてきて、なんのためにデコったり写真貼ったりしてまで日記かいてるんだっけ?を繰り返しているのだが、「感想を禁止する」というのを取り入れてみたら、特級呪物から風土史郷土史みたいな扱いができるんじゃないかと希望を感じている。 - 2025年11月2日
新装版 殺戮にいたる病我孫子武丸読み終わったこれはちょっと好き嫌いが極端に分かれるんじゃないかな。 まずエログロ系が苦手、不快に思う人にはおすすめできません。あと犯人の異常な性癖がかなりまざまざとイメージできるように書かれていて、読むに耐えないという気持ちも何度か押し寄せました。 でも、『みんなが絶賛する叙述トリックを私も味わいたい!!』の一心で読み進め、最後の最後に明かされて、『ん?え?……はぁあああ⁉︎……どういうこと⁉︎』という、「この結末つまりどういうこと⁉︎」になったわけですが、何度か落ち着いて読み返せば、「うわぁ、こっちがこっち!?」と見事にミスリードに引っかかっていたことがわかるような、そんな一冊でした。 最後の章を迎えるまでは兎に角気持ち悪い描写の連続、最後の章になった途端めくるめくストーリー展開に「そうよね、これ官能小説じゃなくてミステリーよね!」となり、叙述トリックの緻密さと、なるほどこれがエピローグに繋がるのね、という感嘆の唸りがでるお話でした。 - 2025年10月29日
そして誰もゆとらなくなった朝井リョウ読み終わったエッセイ三部作の3作目。シリーズものは最初から読みたいタイプなのだが、1、2作目と売り切れで、再販も待てない程読んでみたくて3作目から読み始める。 まず、カバーの裏にある「著者紹介」で心を掴まれた。こんな数行の文章で人を笑わせることのできる人のエッセイが、面白くないわけがないのだ。 案の定本編では何度も声を出して笑った。 *肛門科医とその後 *踊ることに踊らされて *10年ぶりのダンスレッスン *MOTTAINAIの囁き *ホールケーキの乱 *脱・脂質異常症への道 あたりが特にお気に入りだった。 『私の思う“おもしろい”というのは、真剣味と背中合わせの滑稽さなのである。“おもしろいことをしよう”から生まれるものではない』 と筆者が言うように、つまりそれは「真剣に真面目に生きる人にしか、おもしろいことは起きない」ということなのだろうなぁと思う。不真面目で不誠実な人の人生には、きっとおもしろいことも起きないのだ。おもしろいことたくさんあったな、と思える人生にするためにも、真面目に実直に生きていこうと思った。(きっとそういうことではない) - 2025年10月27日
儚い羊たちの祝宴米澤穂信読み終わった【優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な5つの事件】 それぞれ独立した話(短編集)だが、物語が進むにつれ、上流階級に身を置く、学も品も備わった人たちが在籍する「バベルの会」という優雅な読書サークルの存在が、なんだか不穏な存在に変わっていく。 一話一話読む毎に、ぞわ〜っと陰鬱な怖さが味わえます。解説でも言われているように、特に『玉野五十鈴の誉れ』のラスト一行にはスタンディングオベーションでございます。 短編なので、どの物語も話の展開が早くて、さくさくぐんぐん読めて面白いです。 上流階級という煌びやかで華やかな世界の物語のはずなのに、読めば読むほど暗く陰鬱な世界に彩られていくのがミステリーホラーっぽくて最高でした。 あとどの物語も結末に意外なオチが用意されていて、「えっ⁉︎」と息を呑む感覚がまた最高でした。 あと、G・K・チェスタトンの「ブラウン神父シリーズ」の短篇「イズレイル・ガウの誉れ」や、スタンリイ・エリンの「特別料理」など、この作品知ってる人ならまた一味違った面白さがあるんだろうなぁ…というものも多く、国内外のミステリー作品ももっともっと読みたいな、と思う次第でした。 - 2025年10月24日
世界カフェ紀行中央公論新社読み終わった--------- 外気の冷たさで曇ったガラス窓を通して、淡い室内灯でほのかに浮かびあがるカフェの内部……。 そしてシナモン入りのココアで一日の疲れと憂さを忘れる冬の夕刻……。 (アンカラの冬景色より) --------- (子どもの頃、漠然と描いていた大人の世界。 憧れと、切なさを感じる、キラキラした世界。 大人になった今、なんだか先述した文章を読んでいて、あぁそんな世界を描いてはわくわくしていたなぁとふと思い出した) --------- やがてつるされたランプに光がともる。するとそこはもう夢の世界だ。人々はコーヒーを飲み、ティを飲み、お喋りをし、水煙草を喫っている。ぼくのうしろには奥深くカフェの部屋が続いている。 (紫に煙る鏡のなかの迷宮) --------- そこに来ているのは全員が暗い男や暗い女で、本当は明るいのかもしれないが、そこの暗闇にひたり込むと、人生とか世の中とかがいかに暗いかということを考えるほかはないのだった。そういう憂鬱が気持よかった。いまそういう快楽を知る人は少ない。 (暗い暗い快楽) --------- 自分というものが、よくわからなかった。何かに憧れていて、けれどそれが何なのか、わからなかった。どこかを見ているつもりで、けれど自分の前に広がる空間があまりに茫漠としていて、何を見ているのかわからなかった。自分自身も取りとめがないように思われた。 窓の外のビルに灯がともされてゆく光景を覚えている。点いて、また消される灯もある。夕靄に包まれたその明滅は、はるか彼方の、夢のなかの場面のように見える。同時に、遠くからの光がその夢をくぐって、ここまでやってきたようにも見える。遠い世界から届けられた呼びかけの合図のように瞬いている光……。 (カフェテリアのざわめきのなかで) --------- 「あんみつのあんはつぶあんですか、こしあんですか」と訊ねると、まるで「おたくのトイレのトイレットペーパーはシングルですか、二枚重ねですか」とでも訊いたみたいな顔をされることがある。 (甘味喫茶について) ---------
読み込み中...