珠州代 "蠱毒の家" 2025年10月10日

珠州代
珠州代
@suzush1ro_
2025年10月10日
蠱毒の家
蠱毒の家
塔山郁
読了後真っ先に出た感想が「気持ち悪い〜〜!!(褒め言葉)」だった。生暖かい風を全身に浴びるような感覚を受けながら眠りについたあの夜は本当に最悪でしたありがとうございます(褒めてる) こちらは新装改題版で改題前は【人喰いの家】という単行本。 たまたま何か読みたいなと探していたところ、蠱毒(古代中国が起源で、蛇や蠍など毒を持つ生物を一つの壺の中に閉じ込め互いを殺し合わせ、最後に生き残った一匹を呪術の道具にする)を他作品で知っていたこともあり迷わず手に取った。 霊能者・呪術・蠱毒という難しいワードを綺麗に作品に組み込んでおり、文章も癖がなくスッキリとしていて読みやすく一気に読むことが出来た。 一つ惜しいとすれば登場人物の心の揺れ動く様子や残虐的描写も良くも悪くも綺麗に収まってしまっていてさらっと読めてしまった点である。特に自分は窮地に立たされた登場人物達がその時に何を考え何を思ったのかに重きを置いていて、それを文字で感じ取りたいが故に簡単に命のやり取りがされてしまう題材のものを手に取るのだが、一行〜三行程の駆け足気味な心理描写で終わってしまい残念だった。 個人的に物足りなさを感じてしまったものの事細かに書かれていないためグロ描写はあまり得意ではないけど気になるよ〜って方にとってはハードル自体は高くないと思う。 そもそもこの作品の本質は別にある(と自分は勝手に思っている)ので重たい描写が長く続くとしつこくなってしまうためこのくらいが丁度良いと読み終えてから感じた。 主人公の美優の置かれた境遇による一連の行動は一概に考えなし・馬鹿だなと避難は出来ず、もし自分がこの立場に置かれていたらと考えたら同じとは言わずとも似たような行動をしていたかもしれない。境遇により慎重になってしまった性格の奥底にある好奇心旺盛な面が人間味に溢れていて怖い・悲しい時は泣くという当たり前の行動でさえも人の心がない人物が多々登場する本作ではスパイスとなっており暗く湿っぽいだけで終わらない作りになっている。 ただ、美優の影に隠れてしまっているがこの作品の主人公は別の人物だと解釈していてこの人物がいなければ事が始まったとしても出口の見えないトンネルに入ってしまったかもしれない。そのくらいこの人物の行動力・思考力全てが解決のキーパーソンとなっている。どちらかといえばこちらの人物の方が心の揺れの描写が多く、それが主人公らしいと感じた一端なのだと思う。 本作の謳い文句である戦慄のホラー・サスペンスに相応しく終盤におっと思う箇所があり、若干先が見えてしまったり描写が荒いなと思ったもののそこからは怒涛の展開で面白かった。 冒頭でも記した通り読後感は最悪(褒めてる)でハピエンで終わる話では満足できない自分には刺さった。ただ話全体が明るくないので万人に薦められなかったり、メンタルが落ち込んでいる時や疲労感がある時には手に取れないが総じて面白いと思った。
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