田口為 "残るは食欲" 2025年10月16日

田口為
田口為
@naseru_taguchi
2025年10月16日
残るは食欲
残るは食欲
阿川佐和子
エッセイは読みやすいが、特に「食べ物」にスポットを当てたこの本は読みやすかった。 誰もが食事をする。故にテーマとして身近なのだが、私と筆者の食生活が違いすぎて、そこが面白かった。 私は子供がいる共働きであるため、食事は家なら20分以内で作れるか、外食ならファミレスとかっちり決まっている。 丁寧なお菓子作りはそもそもやる気が湧いてこない。せいぜい、ホットケーキミックスで作るバナナケーキで、混ぜてホットクックに入れてスイッチピ、である。 対して筆者は一人暮らし、でも私より年上で精神的に余裕のある大人である。お酒を楽しみ、フードプロセッサーで調理し、自分好みの食材に挑戦する筆者の食生活は、お酒は翌日を思うと控え、洗い物が手間そうな器具を使い、家族が食べないものはそもそも買わない私からすると、一言で言えば「優雅」だ。しかし一方で、筆者は時には一人分の胃袋には持て余す量の食材に悩んだりしている。私ならば、お裾分けせずとも一家で食べきることができるだろうな、などと思った。 このように、自分と違う生活をしている人の食卓を眺めるというのは面白いものだった。 いつか生活が落ち着いたら、お酒とおつまみを吟味して夜ゆっくり一杯、という時間を作りたいものである。 ところで、私はこの本で「お目もじ叶う」という表現を初めて知った。「人に会う」ことを意味するが、「女性が使うイメージ」「会う人は目上の立場」であるニュアンスを含むらしい。ということは、小説などで出てきたら、話者は女性であり、女性にとって目上の人に会うんだな、ということが読み取れるということだろう。 エッセイから思わぬ教養を得られた。読書とはやはり意外な出会いをもたらしてくれるものである。
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