
noko
@nokonoko
2025年10月16日
武田百合子対談集
武田百合子
買った
読み終わった
武田が脳血栓になってから、めまいがときどきしていたでしょう。めまいがするとすごいのよ。自動車から降りるとね、たったった右の方へ斜めに歩いて行って、にこにこ笑ったまま、ふっと仰向けにに倒れる。そういうときに騒がれるの嫌いな人だから、私がそうっと抱きかかえていると、しょっちゅうじゃないけれど、時々「死ぬ練習」ってねー死ぬリハーサルと言うことねー「死ぬ練習」と言うのよ。ずっと5年の間、脳血栓でそんなことがときどきありました。あたしは武田はやさしい人だなって、今になって思ってる。のろけですね、これ。武田は、自分が一気に死んでしまったらあたしがびっくりするから、始終死ぬ練習をして驚かさないようにしてくれてたんだなと思って。
あの対談では、深沢さんはものすごいサービスだったわよ。あの人は、とても義理・人情に固い人なのね。あれは武田が死んで15日目ぐらいに対談したのね。(中略)やっぱり亭主死にたての未亡人だから、そういう喰われ方をしてたかもしれないしれないけど。だけど、対談が延々と続いて終った時、「アア、女言葉でオレ、今日しゃべっちゃったよ」って言ってたもの、深沢さん。(笑)それ聞いた時、あたし、「まいった」と思ったわね。ヤクザみたいな義理固さがあるのね。
大江健三郎が『犬が星見た』を朝日新聞の文芸時評で取り上げて書いているんですね。それが単行本の帯文にも使われているんだけど。
「生涯最後の旅だと予感されている」いわば暗部を、百合子さんが「天真爛漫といっていい眼」で書いているのに、心底だと思うけど、驚いて「それこそは本来の、女性的な力であることを教えてもくれる」と言うのね。この最後、ここがやっぱり大江健三郎、岩波、朝日好みのね(笑)。(中略)
要するに、美恵子だったらさ、「それが百合子さんの最大の魅力である」とか、「百合子さんの圧倒的な誰にも比べられない魅力である」っていうふうに、“百合子さんの繊細な文章の魅力”として書くと思うのね。
ところが大江健三郎は「女性的な力であることを教えてもくれる」って書く。作家としての器の違いだね(笑)。



