たるたる
@miyabi
2025年10月23日

デンデラ (新潮文庫)
佐藤友哉
読み終わった
小説
星4.5
熊
五十人の老婆 vs 人喰い羆
この冬最大のサバイバルアクションミステリー。
#デンデラ #佐藤友哉
熊、熊、熊、熊。毎日テレビやネットから流れてくる熊出没と熊襲撃の話に、恐怖・憤慨・うんざりしているあなたにオススメの、今一番熱い熊小説がこれ。
またまたの長文レビューですが、気に入ったら読んでみてほしい。きっと間違いなく忘れられない、記憶に残る一冊になる筈です。
昔、日本の一部では、遠野物語のように貧しい村では一定の年齢に達した老人を山へ捨てる風習があった。
この物語の舞台である山村にもその風習があり、70になった老人は山の祈り場へと捨てられる。彼彼女らはそこで極楽往生を待つはずだ、老婆の一部は人知れずそこなら助け出され、デンデラという隠れ里に連れて行かれ老婆だけの里を作っていた。
その数五十人。
五十人の老婆。
見渡す限り老婆。ひたすら老婆しかいない隠れ里。そこでは、穏健派と襲撃派という二つの派閥が危うい均衡の上で暮らしていた。
そこに現れた山の主である赤背の巨大な羆。
あまりにも飢饉がひどく冬眠すらできなかった羆は、山の支配者として二本足の人間たちを食料として襲う。爪のひと薙ぎで、老婆を両断し、生きたまま頭を噛み砕く。
その圧倒的な暴力の前に、当然ながら老婆たちの命は軽い。
襲われ、殺され、次々に貪られる。
普通の人間はここで諦める。しかし、すでに一度村から捨てられ死を覚悟した婆ァ達は諦めない。
やられてたまるか。
やり返してやる。
老婆たちは老婆らしからぬ力を発揮し、力を合わせ、武器を作り、策を練り、罠を張り命を賭けて熊との戦いに突入する。
しかし、その中で起こる疫病!
次いで二つの勢力の勢力争いに、裏切り、計略、そして殺人。恐ろしき人喰い熊との戦いの中であまりにも人間的な事件の数々。
果たして、生き延びるのは誰か?
殺人事件の真相は?
熊の脅威を描いた自然小説かと思いきや、雪山のサバイバル小説であり、政治小説であり、殺人に関するミステリーであり、生とは死とは何かと問う哲学でもある本書は、途中までの吉村昭の『羆嵐』のような体裁から一転わけのわからないエネルギーを発し始める。
これに少しでも似た作品はちょっと見当たらない。
まぁ、そもそもが全編通じて、熊と老婆以外は一切登場しないという話自体あり得なくはあるのだけれど。
追記
この小説を知ったキッカケもまた面白いので付記しておきます。
もともとは著者本人による、Xでの投稿がキッカケだった。
村上春樹がイタリアの「日伊ことばの架け橋賞」という賞の授賞式をしてもらうというニュースに対しての、著者の「僕は去年同じ賞を取ったのに授賞式をしてもらってない」という自虐投稿だった。そこから著者とこの本に興味を持ち、購入したのでした。
面白い本を読むキッカケはどこに転がってるかわからないものである。
追記2
ちなみに、この本は映画化もされていて、現在だとアマプラでも見れるようです。僕はまだ見ていませんが、原作の面白さがどれくらい再現できてるか若干不安です。
#映画 #クマ #くま #熊
#読書好きな人と繋がりたい
