
紫嶋
@09sjm
2025年10月24日

買った
読み終わった
先日山陰地方を経由して旅行する機会があり、ならばその道中に読もうと選んだのがこの一冊だった。
尾崎翠は明治生まれ、鳥取県出身の女性作家。若くして文才を開花させ、さまざまな作品を残している。残念ながら、自身の体調などの事情で次第に執筆量は減り、晩年は再び筆をとることなかったが、一部からは高く評価された作家である。
そんな彼女の内なる思考や世界観、理想とした文学の精神性のカケラたちが、作品の隅々にまで散りばめられている。
作風はどこかふわふわと漂うようで、内省的で、時にシュールでもある印象を受けた。文体については明治大正という時代性もあるだろうが、それを差し引いても詩的で掴みどころがなく、少し難解さも含んでいる。
例えるなら、薄暗い屋根裏で一人詩作に耽るような雰囲気。輪郭が曖昧な朧月や、空気の潤んだ朝靄のような……そういった明度や彩度、湿度を持った作品群だった。
決して暗鬱としているわけではないが、溌剌さには少し欠けた、表面上は物静かだが頭の中では絶えず騒がしいくらいに思考を巡らせているタイプの。
実際、そんな人物が彼女の作品には数多登場する。特にそういった、少し考えすぎて風変わりであったり繊細さを秘めているような少女が登場する時、それはもしかすると筆者自身がモデルになっているのではないかと思う。
同様に、作品にたびたび漂う湿度ある空気や、晴空より曇り空が似合いそうな情景も、筆者が生まれ育った鳥取の自然・天候の影響があるのかもしれない。
代表作である『第七官界彷徨』は確かに恋愛の哲学めいていて、登場人物のキャラも濃く面白かった。
個人的にはそのほか『歩行』『花束』『無風帯から』あたりが好き。
唯一、この本に関しての難点を挙げるならば、巻末に筆者の年譜がある一方で、作品の掲載順は発表順にはなっていない。
そのため作風の変遷や文章の精神性の深まりを追おうとするには少し不向きであることが、個人的には残念だった。
