

紫嶋
@09sjm
読書備忘録
文芸から学術書まで、幅広く読みます
- 2025年5月24日借りてきた読み終わったアセクシュアル・アロマンティックとは何かという基礎的な解説だけでなく、その多様性や関連する様々な議論、これらのセクシュアリティの視点から見た現代社会の仕組みなど、単に「アセクシュアル・アロマンティック」にとどまらない多くのことを浮き彫りにしてくれる一冊。 書名に「入門」とあるが、実際には現時点で出来うる限りの深掘りをしており、また個々人や社会が抱える様々な問題点も指摘しているため、当事者だけでなく多くの人に手に取って欲しいと思う本だった。 本著で挙げられていることを特殊なセクシュアリティの限定的な問題として捉えるのではなく、むしろひとつの価値観や思考の枠組みとして積極的に社会に開き、数多の観点や論点とも結びつけていくことで、ジェンダー格差や人種差別、既存の社会制度などを考える際にも応用していけると感じた。
- 2025年5月17日恐怖の構造 (幻冬舎新書)平山夢明借りてきた読み終わった作家ならではの視点から、人間の「恐怖心」や「恐怖と不安の違い」「ホラー小説の書き方」などを分析・考察する一冊。 肩の力を抜いた分かりやすい言葉で書かれているため、気楽な講演会を聞きに来たような気分で読める。それでいて指摘はなかなかに鋭く、なるほど一理あると思わせられる記述が多くて楽しめた。 実在のホラー映画や小説なども具体例にたくさん挙げられているので、その手の作品が好きで知っている人は、より納得の度合いが深まって楽しめるのではないかと思う。
- 2025年5月16日
- 2025年5月11日猫怪々加門七海借りてきた読み終わった猫好きの筆者が転居先の近所で病で瀕死の子猫を拾い、あれこれと最善を尽くしながら、子猫の看病と育児に励む飼育エッセイ……ではあるのだが、一味違うのは怪談・ホラー作家である筆者ならではのオカルトテイストが散りばめられているところ。 私自身は筆者の普段の作品を読んだことがないため、作風などは存じ上げないのだが…純粋な猫好きの視点で読んだ際、正直なところこの「オカルトテイスト」に逆に興醒めしてしまった節はある。 小さな命が救われるならばなんでもするという志は立派だが、それがいささかオカルトに傾倒しすぎていたり、医学や科学よりも自己判断を優先するような傾向が多いところを見ると、逆に猫の健康に悪影響なのではないかとモヤモヤした気持ちになった。まず動物の寝ているそばでお香は焚かないでいただきたい。 私も怪談やホラーは好きなのだが……本著はあまり合わなかったようだ。
- 2025年5月10日いちばんやさしいアロマンティックやアセクシュアルのこと三宅大二郎,中村健,今徳はる香,神林麻衣借りてきた読み終わったアロマンティック、アセクシュアルというセクシュアリティ(恋愛や性的傾向)についての、とりわけ現在の日本における解釈や状況についての教科書になり得る本だと感じた。 自分がそうかもしれないと自認し始めた本人が読むだけでなく、アロマンティックやアセクシュアルについて他者に伝える際に、自分の言葉で説明する代わりにこの本を紹介することも有益と思われる。 まだまだ認知度が低く、該当者自身すらこの概念を知らない・無自覚なまま漠然とした違和感を抱えている可能性がある中、こうして手に取りやすい入門書があることはありがたいことだと思う。
- 2025年5月5日借りてきた読み終わったタイトルから民俗学の領域を想像する人もいるかもしれないが、この本の内容は著者による歴史哲学ならびに考察となっている。 タイトルに挙げられている問いをひっくり返せば、「かつて日本人はキツネにだまされていた」ことになるが、現代を生きる我々の価値観から見れば、そんなのは馬鹿げた迷信や古い伝承だろうと言われかねない。 しかし肝心なのは、かつて日本の伝統的生活空間=村において、自然や動物を含んだ世界で生きていた人々は「キツネに騙される」ことをあり得ることと信じて生きていたということである。 本著はそのように、外部から見た客観的事実とは別の、当事者たちの主観的認識や世界観というものに着目して考える視点というものを提示する。 さらには、この「客観的事実」という考え方そのものにも疑問を提示し、「客観的で知的で直線的かつ発展的な歴史観」というものがいかに狭い価値観の中で意図的に選び取られて書き直されたものであるかを指摘する。こうした現代的な歴史観の中でみえなくなってしまった歴史・領域があることに、もっと意識的になるべきと気付かされる。 本著は全体を通して考察の域を出ず、著者が度々挙げる村の世界観、宗教観なども、具体的な内容に関しては「ソースは?」と疑う余地は当然ある。しかし思考の枠組みという意味では、あらゆる「〜史」という分野において、こういう考え方・切り口も必要なのだろうと一定の納得を感じるものがあり、そういう点で非常に面白い一冊であった。
- 2025年4月29日宇宙は何でできているのか村山斉借りてきた読み終わった非常に身近な言葉と例えを用いて、宇宙と素粒子物理学について解説をしてくれている本。 果てしなく巨大な宇宙について解明するために、とんでもなく微小な素粒子についての研究が必須となることについては「なるほど、そうか」とハッとさせられた。 私自身は科学や物理は全くわからない人間で、この本に書かれた様々な物理法則についても細部まで理解することは難しかったが、それでも宇宙研究・素粒子研究が何を目指してきたかということや、このフィールドに広がる壮大さは伝わってきて、ワクワクとする思いがあった。 「私たちは星くずから作られている」という一見ロマンチックな言葉も、物理学の面から紐解くとまさにその通りであることが、なんとも面白く印象深かった。 すでにこの新書が書かれて10年以上か経過し、本の中では「まだ謎である」と語られていたことも今では発見・解明されたり、研究が進展したことも数多あるのだろう。 改めて宇宙と素粒子研究の最新の状況を知ってみたいと思わされた。
- 2025年4月28日襷がけの二人嶋津輝借りてきた読み終わった「結婚し家庭に入り、夫に尽くし、子を産み育てる」ことが女の「普通」とされた時代に、その「普通」からいわゆるドロップアウトをしてしまった女性たちの間に芽生える、ソウルメイト的な絆の物語だったように思う。 また、女に押し付けられたその「普通」であったり、あるいは「お前は普通ではない」というレッテルであったりというのも、(男性中心の)社会による一方的なものでしかない、ということも物語の端々から滲み出ている。 他者との繋がりは、何も血の繋がりや婚姻による繋がりのみではない。たとえ歳の差があろうとも、同性同士であろうとも、赤裸々に悩みを相談できるほど信頼し合えたり、この人と一緒に生きていけたら大丈夫だと思えたりするような誰かがいれば、人間は何があっても明るく強かに歩んでいけるのかもしれない。
- 2025年4月20日とかげ吉本ばなな借りてきた読み終わったこの短編集全体に共通するテーマが何であるのかについては、作者自身の解説があとがきにあるのだが、敢えてそれを無視して私自身が読む中で感じたことを綴るとすれば、「理屈の外側にある、人生の直感的な領域」の話だったように思う。 誰かとの出会いや自他の生死。自らの意志で選び取っているようで、実際はより大きな因果や流れに導かれるように辿り着いた現時点、そして未来。 作者はそれらをとりわけ恋愛や結婚に結びつけて物語っているが、それは作者の得意なフィールドがそこだったからなのだとも思う。 私は正直、恋愛要素に関しては全く感情移入できなかったが、しかしより広く人生の直感的側面に関する哲学の物語だと考えて読むことで、この本から感じ取れるものが増えたような気がした。
- 2025年4月17日
- 2025年4月5日4月の本ロアルド・ダール,ギュスターヴ・カーン,T・S・エリオット,中井英夫,久生十蘭,北川冬彦,吉田健一,坂口安吾,堀辰雄,太宰治,宮沢賢治,尾崎一雄,山川方夫,日夏耿之介,村山槐多,水野葉舟,泉鏡花,渡辺温,片山廣子,獅子文六,西崎憲,鏑木清方買った読み始めた
- 2025年4月5日食卓の世界史遠藤雅司(音食紀行)借りてきた読み終わった本書のテーマを一言で表すならば「歴史上の偉人たちは、一体どんなものを食べていたのか」。だが紐解いていくと、そこにはさながら縦糸と横糸が複雑に絡み合った文化史・料理史が広がっていた。 領土の拡大により手に入る食材に変化が生じたり、新たな文化圏との交流により調理法に影響を受けたり。それがたとえ侵略や戦争という負の歴史であっても、人々の生活に何らかの変化をもたらす。 古代から近現代に至るまで、人間の食事と歴史の流れは切っても切り離せぬ関係にあるのだと感じることができ、非常に興味深く面白い一冊であった。
- 2025年3月22日傷を愛せるか 増補新版宮地尚子読み終わった買った著者は精神医療の専門家で、言うなれば人間の「心の傷」に関するプロである。 けれどもこのエッセイにおいて、著者は決して「心の傷を克服すべき」だとか「強く前向きに生きるべき」だとか、そんな押し付けがましいことは綴らない。 むしろ、人の心の弱さや傷つきやすさ、一度付いた傷の癒し難さを誰より知るからこそ、それを受け入れた上で、静かで柔らかな眼差しでじっと向き合っている。そして周囲や世界に溢れる様々な傷を通して、自身の心や過去にも想いを馳せる。 そうして綴られた、心の痛みに寄り添った素直な文章の数々には、「人間が傷を抱えながらどう生きていくか」のヒント…あるいは祈りが散りばめられているように感じた。 読みながら自然と心身の強張りがほぐれていく本だった。己の心の傷が疼いて苦しい時にこそ、繰り返し読みたい一冊になった。
- 2025年3月18日リセット<新装版>垣谷美雨買った読み始めた電子書籍
- 2025年2月27日私の部屋のポプリ (河出文庫)熊井明子おすすめ借りてきた読み終わった日々を彩り、心豊かに生きていくためのヒントが散りばめられたエッセイ集だと思う。 それは決して贅沢や賑やかなイベント事を必要とするものではなく、物事の捉え方を柔軟にしたり、小さな工夫を楽しんだり、自分の好きなことを大切にしたり、四季を感じる瞬間を設けることだったりする。 そうしたことが、日常に倦みそうになる心を上手に換気してくれるのだろう。 この本を読みながら、「こんな風に生きたい」と思った。著者の人生の上辺を真似るという意味ではなく、こうした暮らし方の積み重ねをしてみたい、という意味として。
- 2025年2月17日借りてきた読み終わったシリーズも三巻目まで追っていると、作中のレーエンデという土地に対し、読者としても愛着や思い入れのようなものが湧いてくる。そういう意味で、次第に作中の人々に感情移入しやすくなってくるのがこの三巻あたりなのかもしれない。 武力による革命が失敗に終わる二巻目と対になるように、この三巻目では演劇という文化芸術による革命の様子が描かれる。二巻目での出来事を演劇にするという、過去の物語とリンクしていく展開も面白みがあった。 この『レーエンデ国物語』シリーズは、作者の得意分野が上手いこと活かされているように思う。壮大な歴史を創造すること、個々の事象の連なりがやがてスケールの大きな物語へ転じていく様子を書くことに作者は長けているのだろう。 (一方で、用意された大枠の物語、描きたい歴史の都合に合わせるように、時折登場人物の言動や性格がブレるという印象もあるが…このシリーズはあくまでレーエンデの歴史が主軸なため、個々の人物の描写については、目を瞑らざるをえない部分もあるのかもしれない)
- 2025年1月23日水車小屋のネネ津村記久子借りてきた読み終わったタイトルにある「ネネ」は、非常に賢いヨウム(鳥)。その賢さで時折人間をびっくりさせることもあるが、それでもやっぱり鳥は鳥なので、教えてもいない言葉を喋り出すとか、人間を苦難から救うような大きな奇跡を起こすようなことは出来ない。 だが、それでいい。物語の中の人々の、楽もあれば苦もある長い人生の傍に、ネネがヨウムらしくただ存在してくれることで、どこか感情や人間関係の緩衝材になってくれている…そんな印象を受けた。 ドラマティックで派手な展開は起こらないが、その分人々の日々の営みや、変わらぬ毎日を繰り返しているようで少しずつ変化していく様子を、ゆったり感じられる物語だった。
- 2025年1月8日後宮小説酒見賢一借りてきた読み終わった物語の舞台は、架空の中国(風)王朝の後宮。滅びゆく王朝の後宮とあれば、退廃的で陰惨、陰湿で淫靡なものを想像しそうになるが、この物語にはそういったいやらしい湿度はなく、終わりゆくものに対するどこかカラリとした寂しさだけがある。 本当は作中の後宮だってそういうジメジメした場所だったのだろうが、主人公の少女・銀河の未成熟なあどけなさや、そんな彼女と皇帝のあまり性を感じさせない会話、後宮を学問的に捉えようとする学者の存在などが、陰の部分をうまいこと覆い隠していたのかもしれない。 架空の王朝の物語にも関わらず、まるで本当に実在する歴史書や伝聞に基づいて書いているかのような、俯瞰した描写の運びも巧みであった。
- 2024年11月15日尊厳 その歴史と意味 (岩波新書)マイケル・ローゼン借りてきた読み終わった「人権」については熱く議論される昨今だが、比べて人間の「尊厳」についての議論はさほど行われていないように思う。 しかし、現代社会が抱える様々な問題、性や人種の差別、人々が個々に権利を叫んで衝突しあっている現状などを考えるにあたっては、我々が今本当に注目し考えるべきは「尊厳」についてなのではないか…そんなことを考えさせられる一冊だった。 そしてまた、他者の尊厳を考えるということは自然、己の尊厳についても思考を巡らせることにもなる。自己の尊厳を大切に維持し守っていくことも、生きる上での指針として見失わずにいたいと願う。
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