
花木コヘレト
@qohelet
2025年10月25日

歳月
茨木のり子
読み終わった
図書館本
詩
茨木のり子さんの詩には一貫した、スタイル、があって、それでどんな時も茨木さんは涼しげです。僕は、本詩集においても、決して彼女のスタイルは崩れていない、として読みました。逆に言うと、その涼しげな眼差しの後ろに、どれだけ情け深い茨木さんが隠れているのか、と想像しないわけにはいかないのです。
冒頭の作品「五月」では、
(前略)
夜が更けるしんしんの音に耳を立て
あけがたにすこし眠る
陽がのぼって
のろのろと身を起し
すこし水を飲む
樹が風に
ゆれている
とあります。
ここでは、どこまでも冴え渡る茨木さんの神経が、樹と風とは、つまりこの通常世界からは、異世界に紛れ込んだように、私には思えます。この作品世界には茨木さん一人しかいない。しかし、同時に、揺れる樹から何かメッセージを受け取っているようにも感じられます。いつもの世界が、いつもの世界じゃなくなっているようです。
そんな世界でも、茨城さんは茨城さん流に愛します。その、彼女の流儀を彼女が捨てないところ、あるいは捨てられないところに、私は深く、胸を打たれました。
私は思うのですが、愛に関しては、それぞれの愛し方があって、それをあくまで尊重することが、周りの人間には求められているのではないでしょうか。少なくとも、茨城さん流の愛について、とやかくは決して言いたくないと、本詩集を読んで、私は思いました。