
花木コヘレト
@qohelet
2025年10月28日
![「病いの経験」を聞き取る[新版]――ハンセン病者のライフヒストリー](https://m.media-amazon.com/images/I/51ks9XWsfjL._SL500_.jpg)
読み終わった
図書館本
社会学
ハンセン病
まず、本書の中に登場したハンセン病回復者の方、それにこの労作を世に送り出した著者やその周りの方々には申し訳ないのですが、本書は名著でしたが、私には生理的なレベルで、受け付けられませんでした。そもそも、私には難しすぎる内容だったのかもしれません。
単刀直入に言うと、著者が、フィールドワークの時に、ハンセン病回復者の方と、同じ地平に立てていることが、私には最後まで受け入れられませんでした。回復者の方と著者の間に、断絶がないように、あるいは断絶が乗り越えられているように、私には感じられました。そういう意味で、皮肉は一切なく、本書は希望の書だと思います。たとえば神谷美恵子を例に挙げれば、彼女の悲願であった、ハンセン病患者と健常者が肩を並べて語らうこと、これが、本書の中では自然と達成されているように、私には読めました。しかし、私には、この達成が社会学者によって成し遂げられることは許されることではないと感じました。
私が今まで読んだ回復者ののインタビューの中で、最も素直に読めたのは、福西征子さんの「ハンセン病療養所に生きた女たち」なのですが、著者は医者でありながら、医学を離れて回復者の人間像に迫っているように、読めました。しかし本書では、むしろ社会学は武器となって、取材対象者の光と影を浮かび上がらせています。論文だから当然なのですが、しかし私は読みながら、「こういう話は社会学者同士の内輪の話でやってくれよな」とずっと思っていました。もっと言えば、本書は114体の赤ちゃんの標本と何が違うんだろう?と疑ったほどです。社会学的にはメモリアルな労作かもしれませんが、ハンセン病は社会学のためにあるわけじゃないよな、とずっと思っていました。
私としては、ハンセン病回復者の苦しみに触れることができれば、それで十分なのです。しかし、本書においては、回復者の方のビビットなライフヒストリーが提出されていて、確かに日本のために有益な本には違いないと、私も思ったのでした。
繰り返しますが、本書は名著であり希望の書です。では、ハンセン病回復者に絶望を読み取らねば気が済まない私は、回復者の方の幸せを許すことのできない、保守的な頭の硬い人間でしょうか?
